【10リスト】私たちの心を揺らしたback numberの名歌詞10

清水依与吏(Vo・G)、小島和也(B・Cho)、栗原寿(Dr)の3人で編成され、今や国民的な人気を誇るback number。インディーズでミニアルバム『逃した魚』、フルアルバム『あとのまつり』をリリースすると、リアルに情景が思い浮かぶような切なく心を揺さぶる恋愛ソングに多くの注目が集まり、2011年にはシングル『はなびら』でメジャーデビュー。現在までに16枚のシングルと5枚のオリジナルアルバムをリリースしていて、昨年末に発売された初のオールタイム・ベストアルバム『アンコール』は大ヒットを記録、現在もロングセールスを継続中である。そんなback numberのラブソングの魅力について、やはり清水依与吏の綴る歌詞抜きに語ることはできない。今回は、インディーズ時代の楽曲から最新曲まで象徴的な10曲をセレクトし、珠玉の10フレーズを紹介したいと思う。(杉浦美恵)


① 西藤公園(1stミニアルバム『逃した魚』/2009年)
《「私は冬が好き 言葉が白く目に見えるから」/そう言った君の隣 ひねくれ者は思う/ああそうかこんな風に 空に上がって消えちゃうから/うつむいたままの君にまっすぐ伝わらなかったのか》
西藤公園は、群馬県に実在する公園で、おそらくは清水依与吏自身の個人的な思い出が歌詞にも込められているはずだ。ひとつの何気ない瞬間を切り取って、切ないラブソングへと紡ぎあげていく才能が、インディーズ時代にすでに完成されていたことを感じさせる1曲。ここで挙げた歌詞は楽曲冒頭の一節。吐く息の白さに幸福を感じる「君」と、そこに言葉が消えてしまう儚さを見る「僕」──思いがうまく相手に伝わらないもどかしさが、公園の冬の寒さまで感じられるような言葉で表現された初期の超名曲。


② 春を歌にして(1stミニアルバム『逃した魚』/2009年)
《強くなりたいと願う度にひどく虚しい気持ちになる/強くなれたってその姿を/見せたいのはまだあなただから》
この曲もインディーズ時代の名曲で、非常に叙情的な失恋ソング。“春を歌にして”というタイトルから、前向きでハッピーな曲だと思いきや、弱さと情けなさとを包み隠さず表現し、早くも清水依与吏の恋愛ソングの真骨頂をここに見ることができる。引き摺る思いに決別できない自分、そして強くなりたいと願う思いにまで「あなた」が消えない。それを歌にすることでさらにその思いを強く刻みつける。この曲には現在のback numberにまで続く、清水の表現活動の原点を見るような気がする。


③ はなびら(1stシングル/2011年)
《歩道橋の上にも横断歩道の向こうにも/駐車場の緑のフェンスの前にも/いたる所で君の想い出が笑ってて/ずいぶん住みにくい街になったな》

記念すべきメジャーデビューシングル。前述した“春を歌にして”にも通ずるような、その切なさがこれ以上ないほどに凝縮された歌詞とサウンドで、この楽曲で彼らの存在を強く認識した人も多いはず。日常の景色に「君」の不在を感じるという描写は、多くの恋愛ソングに見られるものではあるが、ふたりでいた頃には特に気にしていなかった情景が突然意味を持ち始め、《ずいぶん住みにくい街になったな》とまで表現するところに、清水のストーリーテラーとでも言いたくなるような突出した作家性を感じてしまう。


④ 幸せ(2ndアルバム『スーパースター』/2011年)
《私が聞きたかったのは/終電の時間でも好きな人の悪口でもなくて/せめて今日のために切った髪に気づいて/似合ってるよって言ってほしかった》
back numberの楽曲には、女性目線で描かれた歌詞も数多く存在する。この“幸せ“もその代表的な1曲。好きな人には別の好きな人がいて、想いを隠しながら友だち関係を続ける女性の切ない気持ちが綴られる。《最初から/あなたの幸せしか願っていないから》という言葉の奥にある本音を表現したのが、ここで挙げたフレーズで、残酷なまでにふたりの気持ちの温度差を物語る歌詞である。この痛みは誰もが少なからず経験するものだと思うのだが、驚くほど女性の気持ちを巧みに表現していて、今でも聴くたびに少し胸がチクチクする。


⑤ 高嶺の花子さん(8thシングル/2013年)
《キスをするときも 君は背伸びしている/頭をなでられ君が笑います 駄目だ何ひとつ 勝ってない/いや待てよ そいつ誰だ》

1stアルバムに収録された“そのドレスちょっと待った”にしてもそうだが、どこかコミカルだけど切実で、くすっと笑いながら思わず共感してしまうような楽曲も、back numberの魅力のひとつだ。この“高嶺の花子さん”では、シリアスな恋愛へ発展する以前の、脳内で繰り広げるネガティブな妄想がファニーに描かれている。「花子さん」の彼氏像を勝手に作り上げ、存在しない相手に「勝ち目はない」と落ち込む自分に、「そいつ誰だ」と自らツッコミを入れる。そんな小気味のいいノリツッコミに、今ならまだ笑いで終わらせられるという弱気が見え隠れしながら、恋をする幸せが溢れ出る名曲。


⑥ fish(9thシングル/2014年)
《私のスカートが青く揺れている/終わりの言葉に怯えているのね》

これも“幸せ”と同じく、女性目線の歌詞が切なすぎる。恋愛が終わるその瞬間を描き出す楽曲の、歌い出しの一節がこのフレーズである。スカートが揺れているのは、「私」の体が震えているからなのか、冷たい風が吹いているからなのか、そのスカートの「青さ」が痛いほどの悲しみを表現している。この、ほんの短いフレーズの中に、その情景と心情と、この先に続くであろうブルーな現実がすべて凝縮されている。back numberの楽曲は歌い出しの歌詞で心を掴まれるものが多いが、個人的にはこの曲の歌い出しが一番切なくて好きだ。


⑦ 世田谷ラブストーリー(4thアルバム『ラブストーリー』/2014年)
《改札入って振り返り 気をつけてねとまた君は手を振る/僕も同じ言葉を言いながら 呼び止めなきゃと 心で繰り返す》
これはもう「世田谷」でなくても、自分の住むエリアの地名に置き換えれば、完全に「自分の歌」になる普遍性を持つシチュエーションで、それが単なる「あるある」で終わらないのは、清水の言葉選びの巧みさと言葉に寄り添うようなメロディゆえ。改札を入ってしまった「君」が「また」手を振る──ここに「また」という言葉が入るだけで、お互いの離れ難さが強調され、その先へと進めないもどかしさを増幅させる。清水依与吏の書く歌詞が、物語として高い完成度を誇るのは、細部の言葉にまで無駄なく意味が込められているからだ。


⑧ 手紙(13thシングル/2015年)
《嬉しい事があった時に/誰かに言いたくなるのは/自分よりも喜んでくれる人に/育ててもらったからなんだろうな》

親への愛を歌った穏やかで感動的なラブソング。その歌い出しがこのフレーズで、この曲を初めて聴いた時に、清水依与吏という人が、なぜこれほどまでに自分を飾ることなく、弱さや情けなさや優しさや、そして時にはずるささえも歌詞に投影して表現することができるのかという、その答えのひとつを受け取ったような気がした。一番身近にいた人が、自分の感情をまっすぐに受け止めてくれていたということ。その喜びを思い出と感謝として綴りながら、自身もまた、はぐらかすことなく、これからも愛を歌っていくという誓言のようにも響く。


⑨ クリスマスソング(14thシングル/2015年)
《できれば横にいて欲しくて/どこにも行って欲しくなくて/僕の事だけをずっと考えていて欲しい/やっぱりこんな事伝えたら格好悪いし/長くなるだけだからまとめるよ/君が好きだ》

“手紙”から、約3ヶ月という短いスパンでリリースされた、文字通りのクリスマスソング。“手紙”で表現したストレートでピュアな愛情表現を、そのまま純度100%で恋愛ソングへと展開させ、back numberのラブソングがひとつの完成形を見たような素晴らしい楽曲。騒がしいクリスマスの喧騒とは対照的に、静かに積もる雪のように純粋で切実な思いを、なんとか言葉で伝えようとあれこれ思い巡らしながら、ようやく《君が好きだ》という一番シンプルな言葉にたどり着く──その過程が、清水依与吏の作詞の過程にもシンクロするようで、《君が好きだ》というこれ以上ないほど単純な歌詞に、驚くほど心を揺さぶられる。


⑩ ハッピーエンド(16thシングル/2016年)
《青いまま枯れてゆく/あなたを好きなままで消えてゆく/私みたいと手に取って/奥にあった想いと一緒に握り潰したの/大丈夫 大丈夫》

こんな悲しい曲に“ハッピーエンド”というタイトルをつけるのも、とても清水依与吏らしいと思う。《あなたを好きなままで消えてゆく》と、言われる側、つまり主人公の相手側から見ればハッピーエンドなのだと取ることもできるし、恋愛をして、ひとつの終わりを迎えて、これほどまでに胸が痛いということは、ここでの主人公にとってもハッピーエンドと言えるのかもしれない。清水依与吏が描く歌詞世界が常に立体的でリアルな痛みを感じさせるのは、主人公自身の感情だけでなく、その相手の思惑までもが、実にさりげなくにじみ出ているからだと思う。


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