2005年にソロデビューをしてからというもの、力強さと憂いを兼ね揃えた歌声と抜群のリズム感、確かな技術と表現力を持つ歌唱とダンスで人々を魅了し、コレオグラフやソングライティング、楽器も操るスーパーエンターテイナー・
三浦大知。彼の歌とダンスは、楽曲の魅力を様々な観点から引き出し、より豊かなものへと昇華している。今回はエンターテインメントの可能性を広げるべく精力的な活動を行い続ける彼の歌とダンスの融合が特に素晴らしい楽曲を10曲ピックアップ。楽曲、歌、ダンスのそれぞれに着目しながら、彼の表現の世界を紐解いていこう。(沖さやこ)
①Delete My Memories
2009年5月にリリースされたシングル曲。ダンサブルでありながら静を重んじたサウンドメイクで、離れていく恋心を淡々と切なく描いていく。メロディも同じ音が続く箇所もあれば美しく波打つセクションもあり、ダンスもダイナミックな攻め方というよりは止まる瞬間を効果的に見せる場面が多く、その切迫感が少しずつズレていく恋人同士の心の波を繊細に切り取ったものになった。MVでは三浦のバックに4人のダンサーが存在するが、そのすべてを務めているのはなんと三浦本人。合成とはいえ一糸乱れぬその完成度の高さに、彼の並々ならぬこだわりが見える。
②Touch Me
2011年11月にリリースされたアルバム『D.M.』収録曲。ヒップホップ調のビートがエッジーに響きつつも、《君のことが何よりも大事》という歌詞の通り、ソフトでムーディーな印象のある楽曲ゆえ、歌もダンスも優しくスマートな印象を与える。清々しく響くシンセの音色は浮遊感を持ち、彼の爽やかな色気を表現するには申し分がない。“Touch Me”というタイトルを受けてか、普段以上に「手」や「指先」が細やかに表現されており、終始恋の相手をエスコートするような繊細さと力強さを併せ持つ。上記のライブ映像では、最後にハンドマイクを小さく動かす仕草もアクセントに。完璧なフェイクと語感も含め、穏やかかつ情熱的な幸せを噛みしめられる。
③Right Now
2012年12月にリリースされた両A面シングル『Right Now / Voice』の表題曲。シリアスでメロディアスなボーカルとクールなトラックが特徴的で、ダンスも「これぞ三浦大知のスタンダード」と言うべき、緩急を用いてドラマチックな展開を見せる。本人は以前TV番組で「ダンスは聴こえない音を感じさせるもの」と発言していたが、その「聴こえない音」のひとつとして、楽曲の主人公の感情の機微が挙げられる。ダンスフロアと男女の駆け引きというシチュエーションをロマンチックかつスリリングに落とし込めるのは、彼の表現者としての才能があってこそだ。
④I'm On Fire
2013年11月にリリースされたアルバム『The Entertainer』収録曲。EDMとポップスを融合させたトラックに、《興奮するだけすればいい》という歌詞で始まるなどハイテンションを詰め込んだ、遊び心に富むライブアンセムだ。MVなどでも男性バックダンサーたちとともにアグレッシブでダイナミックなダンスを繰り広げ、それぞれのメンバーにスポットを当ててチーム感を演出。大技も多く、まさに興奮を表現した歌とダンスが味わえる。やんちゃな面を見せつつも、あくまでも気品を失わないパフォーマンス。仲間たちをしっかりと立てるところにも、彼のエンターテイナーとしてのポリシーが散見する。
⑤Unlock
2015年2月リリースのシングル曲。ダンサーとして世界で活動する菅原小春とのノーカットパフォーマンスムービーや、2017年10月に放送されたテレビ朝日『関ジャム完全燃SHOW』のダンス特集でも大々的にピックアップされるなど、三浦大知を語るうえでの最重要楽曲のひとつだ。歌詞には《空のままの器》など虚無感や沸々とした感情が綴られ、トラックのムードも緊迫感と倦怠感が入り混じる。人間の内側にある深い念を表現した鬼気迫るダンスと、クールかつソフトでありながら、その奥になにか鋭い感情を秘めているような奥行きのある歌声の交錯。三浦の「隠す美学」が如実に表れた楽曲となった。
⑥Cry & Fight
2016年3月リリースのシングル曲。音楽プロデューサーのUTAとビートメーカー/DJ/プロデューサーのSeihoが制作パートナーを務め、三浦も作詞作曲ともに参加している。ダンスナンバーと言えばパフォーマンスをしやすくするためにリズムやフレーズに一貫性があるものだが、この曲にはエレクトロニカやEDM、トロピカルハウスもあれば、サンバやトラップなど、海外のトレンドとなるスタイリッシュなサウンドが入り混じっており、非常に展開が多い。そのカラフルな要素をまとめあげるセンスと根幹にあるものは、日本人的な情緒深さ。ダンスにもエッジさだけでなく花鳥風月的な流麗さも盛り込まれ、三浦がこだわったという「純国産ダンスミュージック」が高水準で体現されている。
⑦(RE)PLAY
2016年11月にリリースされたシングル曲であり、世界最⾼峰の1on1 ブレイクダンスバトルトーナメント「Red Bull BC One World Final 2016」のテーマソング。2019年には公開サバイバルオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN』の課題曲に起用され再注目された。ブレイクビーツを用いたトラックはシンセやホーンなどブライトな音像に彩られ、新しいブレイクビーツの解釈を実現した。MVはブレイクダンス、ロックダンス、ポップダンスで活躍する世界的ダンサーが14名集結するという豪華仕様。企むように笑う三浦を引いていくと14人が勢ぞろいしているというカットはアベンジャーズさながらだ。その贅沢な遊び心にも、三浦が日本のダンスミュージックシーンをさらに盛り上げようとする気概が感じられる。
⑧Darkest Before Dawn
2017年3月にリリースされたアルバム『HIT』収録曲。同アルバムが“Cry & Fight”以降の生々しさや人間味を増していくという進化を迎えた彼の姿をコンパイルした作品ゆえ、1曲目を飾る同曲はアコギで幕を開け、シンガロングパートを用いるなど、そのシンボル的存在にもなった。“Darkest Before Dawn”というタイトルも、ソロデビューから唯一無二の活動を積み重ねてきた彼の歩んできた道を示しているようだ。「三浦大知」という人間の意志の強さや存在感があってこそ生まれた楽曲と言っていいだろう。単身夜明けの岩場や崖の上でのフリースタイルダンスはまさしく孤高。生命力や生きる喜びに溢れた様子に、目を見張ると同時に恍惚としてしまう。
⑨飛行船
2018年7月にリリースされたアルバム『球体』収録曲。同作はNao'ymtと三浦の2人による音源とライブが完全に一体化しているプロジェクトを行うための実験的なコンセプトアルバム。全曲Nao'ymtが作詞作曲を手掛け、制作期間は3年半にも及んだ。この“飛行船”は《ただ自分でいたいだけ/湧き上がる熱が/枷を溶かして/今、走り出す》という歌詞や、徐々にサウンドの景色を変えていくドラマチックな展開など、不安の多い現代を生きるひとりの人間の心情や人生がダイレクトに落とし込まれている。その「願い」とも言える気持ちを三浦は切々に歌い上げ、もがきとしなやかさを併せ持つダンスで凛とした生き様を見せた。感情のピークを迎える直前に響く篳篥や和太鼓のような音色も高潔だ。
⑩Be Myself
『球体』から約1ヶ月後にリリースされたシングル曲。ふだん少人数でパフォーマンスを行うことの多い彼だが、同曲の「狭い場所から開けた新しい世界に飛び出していくイメージ」を受けて、MVには66名のダンサーを起用している。ダンサーの人数が徐々に減り、最後に三浦のみが光のなかで踊るシーンは、まさに「Be Myself=自分らしさの目覚め」の象徴だ。楽曲の物語を歌だけでなくダンスでも伝える彼のパフォーマンスは、演劇的というには非常に生々しく、等身大というにはあまりにも高貴。彼にとっての表現が、エンターテイナー・三浦大知の生き様とイコールになっていることを実感する楽曲だ。《どんなときも/自分でいたい》という歌詞のとおり、この先も彼は、彼でなければ成し得ない表現方法を追求し続けるだろう。