横山健がKen Yokoyama名義でソロ始動したのは2004年のこと。それから、横山健個人としても、Ken Bandとしても、そして世の中も、本当に様々な変遷を経てきた。彼(ら)が生み出してきた楽曲を振り返ると、それらが赤裸々に映し出されていることがよくわかる。今回、数多くの名曲の中から、悩みに悩みぬいて10曲を選曲。その足跡と共に、Ken Yokoyamaが唯一無二のパンクロックヒーローと言われる所以を解き明かしていきたい。(高橋美穂)
①I Go Alone
1stアルバムの1曲目で、ひとりアコギをかき鳴らしながら《Made my choice so I go alone》と歌う――このオープニングは、当時とても衝撃的だった。2004年に、横山健が自身の名義で、ボーカルとして表現すると、こうなるのか、と。今聴くと、温かいメロディだし、アルバムの参加メンバーである
堀江博久のキーボードも印象的で、決して孤独な歌ではないのだが。のちにKen Bandの手でアグレッシブな“I Go Alone Again”という形に生まれ変わった時は、《alone》の聴こえ方が変わってホッとしたと同時に、ひとりだけどひとりじゃない、でもやっぱりひとり……というような、この楽曲の真意も見えてきた。Ken Yokoyama始動の意味や、Ken Yokoyamaサウンドの核を物語る、あらゆる意味での原点。
②Believer
1stアルバムには、ほかにも“The Cost Of My Freedom”、“Running On The Winding Road”など、横山健の歩みを象徴するような名曲がたくさん収められているが、なかでも“Believer”からは、強いメッセージを感じる。その手でインディペンデントを切り拓き、何度も躓いては立ち上がってきた彼が歌う《I’m a believer/Not just a dreamer》という歌詞の説得力は絶大だ。ライブで巻き起こる、このラインのシンガロングも感動的!
③How Many More Times
ライブをやる際のKen Bandのメンバーが固まり、そのバンド形態で初めて音源としてリリースされた1st EPの表題曲。バンドサウンドでありながら、《I walk alone》と吐露する歌詞は、横山健個人が抱え続けているものを感じさせる。ただし、この歌詞は当時のKen Bandの要だったサージ(B・Cho)との共作だ。彼は自問自答を繰り返し、孤独と向き合い、そのすべてを歌い鳴らそうとしたからこそ、わかち合える仲間を得て、名曲を生み出せたのではないだろうか。そして、だからこそ多くのキッズが改めて彼に魅了されたのではないだろうか。これが代表曲となったのも、そんな「らしさ」が詰まっているからだと思う。
④Ten Years From Now
1stアルバムから一転、思いっきりバンドサウンドを披露した2ndアルバム。なかには“How Many More Times”のような内省的な楽曲もあるが、全体的にはオープニングの“Cherry Blossoms”から開けている印象だ(タイトルも『Nothin’ But Sausage』だしね!)。その象徴とも言えるのが“Ten Years From Now”。なんたってアルバムのラストなのに、10年後、そしてそれ以降の未来をも、横山健が想像している楽曲になっているのだ。心踊るメロディで歌い上げる《人生は素晴らしい/だってオレはズーッと楽しんでるんだ》(意訳)という歌詞。振り返ってみると、Ken Bandのひとつのスタート地点のようにも思えてくる。
④Ricky Punks II (The Lamepire Strikes Back)
Ken Yokoyamaを語る上で欠かせない“Ricky Punks”シリーズ。EP『How Many More Times』に“Ricky Punks”が、アルバム『Third Time’s A Charm』に“Ricky PunksⅡ(The Lamepire Strikes Back)”が、アルバム『Best Wishes』に“Ricky Punks III”が、それぞれ収録されている。なかでも“Ricky Punks II”は、2008年に行われた初めての日本武道館公演でも披露された、サージも大活躍のナンバー。ノリ重視に見えて、曲調と歌詞で「パンクとはなんたるか?」を考えさせてくれる……言わばKen Yokoyamaの権化みたいなシリーズではないだろうか。
⑥I Love
Ken Bandでライブを重ね、「Ken Yokoyama」として立ち位置を確立した頃にリリースされた3rdアルバム『Third Time’s A Charm』は、横山健のソングライティングセンスが様々な形で花開いた一枚となった。そのラストを飾る“I Love”では、家族や友達、そして音楽への愛情をストレートに歌い上げている。パンクや内省的なロックを聴いたことがない人にも、すっと飛び込んでいける歌詞とメロディ。横山健のキャパシティーを証明する楽曲だと思う。ライブでは、いかつい兄ちゃんも♪アーイラブ!と笑顔で手をあげていた姿が印象的。
⑦Punk Rock Dream
2008年にKen Bandからコリン(G)、サージが脱退し、現在のメンバーである南英紀(G)、Jun Gray(B)が加入。新体制で作ったアルバム『Four』は、この節目をバネにするように、意思を露わにした鋭い作品となった。“Kill For You”、“Let The Beat Carry On”、“Still Burning”など、タイトルからして強い、そして今でも愛されている名曲が並んでいるが、なかでも堂々とパンクロックを掲げた“Punk Rock Dream”は秀逸。《オレのパンクロックドリームは 本当にあったんだ》(意訳)というラインを、年齢を重ねた横山健がエモーショナルに歌う姿は、夢と現実を同時に見せてくれた。
⑧We Are Fuckin' One
2011年3月11日に起きた東日本大震災。その直後にPIZZA OF DEATHが制作したTシャツに書かれていた言葉が「We Are Fuckin' One」だった。アルバム『Best Wishes』の火ぶたを切ったのは、それをタイトルに掲げたナンバー。性急なビートにのった《カッコつけんのもいいけど 今はそうすべきじゃない なんでそれがわかんねーんだ?》(意訳)というメッセージは、横山健が思っているまんまを真空パックしたような生々しさだ。また『Best Wishes』では、ライブで旗が舞う“This Is Your Land”などにおいても、剥き出しになった横山健の思いが聴こえてくる。これが表現できたのは強い信頼関係と軽やかなフットワークを誇るKen Bandならではだろう。震災前にはGUNN(Dr)が脱退しMatchan(Dr)が加入する局面もあったが、見事に乗り切った。
⑨I Won’t Turn Off My Radio
ロックンロール回帰のアルバム『SENTIMENTAL TRASH』の前兆となったナンバー。疾走感はありつつも、センチメンタル色が濃い。箱モノのギターをきっかけに、ソングライティングに変化が生まれ、こういったシンプルなロックンロールが生まれた――つまり、Ken Yokoyamaよりも、言ってしまえば
Hi-STANDARDよりも原点の、いちギタリストの横山健の引き出しを開けた楽曲なのだと思う。これまでの枠組みに囚われず、自分だからこそできることをやり切る姿勢が表れているようだ。
⑩Balls
2018年にMatchanが脱退するも、松本英二(Dr)が加入して止まらずに走り続けたKen Band。しかし2019年の秋に横山健が体調不良となり、それから世界はコロナ禍に突入。誰もが先の見えない不安を抱える中、ついにKen Yokoyamaが動きを見せた。それが1stミニアルバム『Bored? Yeah, Me Too』。えっくんのアグレッシブなドラムが際立つ演奏と、毒もユーモアも哀愁もひっくるめて頼もしく響いてくるメッセージが収められているが、特にピックアップしたいのは“Balls”……そう、
FACT出身のえっくんのしなやかな技巧が光る、Ken Band流ブラストのキンタマソング! 2020年のKen Bandらしい、(あらゆる意味で)生きまくる姿勢を表明するタフなナンバーだ。
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』11月号にKen Yokoyamaのロングインタビュー掲載