①sister
Eveにとってボーカロイド曲としての初制作曲であり、後にセルフカバーした“sister”は、今はいない「君」への想いと後悔が綴られたナンバー。後悔しない人間はいないし、《思い出したって なんだって/悪いのは全部僕なんだ》と暗い思いに呑まれてしまう時もある。確かに、過去は誰にも変えようがない。けれど、あの時伝えられなかったことも、いつか《抱え込んだ言葉達も 形を変えて君の元へ》届く日がくるかもしれない。切なく爽やかなメロディには、そんなひとかけらの希望が織り込まれている。②ナンセンス文学
自己嫌悪と自己愛のループが、《ホントの僕》を求めては、そんなものはないと否定されてさらに膨れ上がる。肥大した自意識が決壊する時に訪れるのは、《僕ら/馬鹿になって 宙を舞って/今だけは忘れてラッタッタ》と、意味も理屈も蹴っ飛ばすようなナンセンスで感覚的な世界だ。不穏なのに愉快で、散らつく真意が掴めそうで掴めない。絶妙なバランスで組み上がったリズムに、心の底の部分を容赦なく揺さぶられる。Eveのセンスが炸裂した珠玉の一曲だ。
③ドラマツルギー
いくつ仮面をかぶってみても、役になりきってみても、自分という存在は自分でしかない。閉ざされた劇場の中で「自分」というキャラクターを演じながら、《“ワタシ”なんてないの/どこにだって居ないよ/ずっと僕は 何者にもなれないで》と嘆く。そんな臆病な自我の滑稽さを揶揄するような詞とメロディが、Eveの熱のこもらないフラットな歌声によって切れ味を増している。驚異的な動画再生数を誇るEveの楽曲の中でも、圧倒的な支持を受ける“ドラマツルギー”は、新時代のポップミュージックの金字塔と言っていいだろう。
④あの娘シークレット
片想いのあれこれを描いたポップな一曲。パステル調の世界で、クマのマスコットに背中を押されながら、「あの娘」のために「僕」が奔走するMVがキュートだ。君と話したいけれど、いざ目の前に立ったら何を話したらいいかわからない。仲良くなれたと思ったら、「先輩が好き」なんて打ち明けられた上にキューピット役まで任されちゃって、《本当は止めたいのに約束/お人よしなのもうたくさんだ》なんて弱音を吐く。不器用で自信がなくて、かっこつかない片想いが飾らずに歌われている。だからこそ、「あの娘」へのシークレットな恋心のピュアさが際立って、眩しい。⑤お気に召すまま
軽快なギターカッティングから始まる、気分が湧き立つようなご機嫌なナンバーだ。《さあさあ輪になって》、《ねえねえ わかんないや》などリズムの良い詞が散りばめられているのが、跳ねるようなメロディにぴたりとはまって気持ちがいい。嫌になったり好きになったり、気まぐれに揺れ動き、掴んだと思ったらまたわからなくなる。コントロールできない自分の感情を《僕の心をシェイクシェイク いえい》とお茶目に描きだす。ままならない気持ちさえ楽しむような“お気に召すまま”というタイトルが見事だ。
⑥アウトサイダー
《ねえねえ この世界を/どっかでひっくり返したくて》、《まあまあ そんなんで/少年少女揃いまして/唸り始めた会心劇さ》。既成の枠組みから外れたアウトサイダーによる、世界への宣戦布告だ。画一化された《白と黒の色のない世界》に迎合することなく《君にだけにしかできない事はなんだ》と問いかける。疾走感あるメロディに、今あるすべてががらりと変わってしまうような、革命前夜の予感が掻き立てられる。⑦僕らまだアンダーグラウンド
現代らしき世界に生きる少女と、異世界らしき場所で暮らす少年。異なる二つの世界で二人が出会い、運命が交差していく――。そんなストーリーが作り込まれた街並みを背景に展開するMVは圧巻だ。二人が共通して抱えるのは《何処にも逃がしてくれないや/自分を見失ってしまうわ》という現状への閉塞感。出会うはずのなかった二人は手を取り合って共犯者となり、街を飛び出していく。自分の意志でつかみ取るのは、無限の可能性を持つ、今はまだアンダーグラウンドな新しい世界だ。⑧君に世界
永遠に生きられると思ってるわけじゃない。でも私たちはなんとなく、明日も一年後も生きているし、君もずっと隣にいると当然のように思っていたりする。けれど、ひとたび「終わり」を意識した時、世界の見え方はきっと変わる。《僕は今日何を食べるんだろう/誰と会えるんだろうな》なんてささいなことが、代えがたいものだと気づく。終わってしまうことは怖い。けれどそこから目をそらさずに生きている時こそ、世界は鮮やかに色づくのかもしれない。今自分はどんなふうに立って生きているのか、《君に世界は青く見えたかい/君に世界は赤く見えたかい》と繰り返すサビが問いかけてくるようだ。