※2022/09/08 更新
①貴方解剖純愛歌 〜死ね〜
すべてはここから始まった。最初にこの曲を聴いたときのことを今でもよく覚えている。勢いのあるロックサウンドとポップなメロディ、そしてサビで叫ぶ《死ね》というフレーズ。こんなラブソングありなのか、と衝撃を受けた。「好き」という気持ちをどこまでも濃く煮詰めて凝縮していった、最上級の表現としての《死ね》は、とても人間的で、どこまでも切ない。あいみょんは誰もやらなかった書き方で、誰もが感じたことのある「あの気持ち」に形を与えた。これが過激な表現の目新しさだけで受け入れられたわけではないことは、その後の彼女の活躍が証明している。②生きていたんだよな
あいみょんの歌は、「愛」とか「生」とか、どう考えても疑いようのない概念を揺さぶり、ときにひっくり返してしまう。そんな歌を聴くたびに、僕はハッとさせられるのだ。このメジャーデビューシングルは、まさにそんな彼女の凄みを象徴する曲。ここで歌われていることは間違いなく悲劇だが、それをあいみょんは哀れな過ちとしてではなく、眩く輝く命の選択として描いてみせる。それはきっと、きれいごとをいくつも重ねるより何倍も真摯な「生」への態度だ。シリアスで重いテーマの曲ではあるが、そのぶんそこから伸びる救いの手はとても強く大きい。③愛を伝えたいだとか
ディープなファンクミュージックのフィーリングが実はあいみょんの歌独特の揺れ方や伸び方にばっちりハマるということを、この曲で知った。メジャーデビュー以来タッグを組む田中ユウスケによるプロダクションが、彼女の新しい魅力を引き出した1曲だ。そしてそのグルーヴィーなアレンジ(ちなみにベースを弾いているのは□□□の村田シゲ)が、あいみょんの描き出す「愛の崖っぷち」の風景をよりヴィヴィッドに見せている。そう、彼女の歌う愛はいつも何かが足りないし、いつも何かが手遅れだ。その「満たされない感じ」が、あいみょんの普遍性の源泉だと思う。④君はロックを聴かない
シングルを出すたびに違った顔を見せる幅の広さはあいみょんの魅力のひとつだが、鋭い観察眼とシリアスなテーマ性を突き詰めた“生きていたんだよな”と心地よいファンクグルーヴで躍る“愛を伝えたいだとか”に続いて満を持してリリースされた王道のミドルチューンが、この“君はロックを聴かない”だ。「ロック」というキーワードひとつで男の子と女の子の違い、褪せることのない青春、焦がれるような恋心、そのすべてを浮かび上がらせる詩人としてのセンスは見事としかいいようがない。ずっと鳴っているアコギのストロークに合わせて、すぐ近くで聞こえてくるシンプルな歌は、淡々と心を揺さぶってくる。⑤ふたりの世界
ライブでは《まだ眠たくないのセックス》の《セックス》をみんなで大声で叫ぶというシーンが定番化しているこの“ふたりの世界”だが、当然そこがこの曲のハイライトというわけではない。というか、セックスが日常になった恋のなかで宙ぶらりんになった心、「好き」だけでも「嫌い」だけでも言い表せない気持ち、続いていくことの幸福と不安――どっちつかずの微妙さゆえにラブソングでは歌いにくそうな恋愛の風景を、これだけ軽やかに、そして肯定的に歌いきっているところがいい。あいみょん版“トリセツ”……とか言うと誤解を生みそうだけど、この曲が多くの共感を呼ぶのはつまりそういうことだ。⑥マリーゴールド
今さら説明不要、あいみょんの名前を一躍世の中に知らしめた大名曲である。Aメロからサビまで一直線に伸びていくようなメロディ、聴き手の想像をかき立てるキーワードが散りばめられた歌詞、弾き語りに肉付けしていったようなシンプルでちょっと懐かしいようなロックアレンジ、どれを取ってもタイムレスな魅力をたたえた楽曲だ。そしてそれと同時に重要なのは、この曲が歌う情景が、それこそ“貴方解剖純愛歌 〜死ね〜”から続くあいみょんの「愛」の表現としっかり地続きであるということだろう。どちらが表でどちらが裏かはともかく、この曲にもまた、言葉だけではない「純愛」を探し続けるあいみょんの姿が色濃く滲んでいると思う。⑦恋をしたから
繊細な弾き語りで切々と歌われる恋の心情。決して派手な曲ではないがアルバム『瞬間的シックスセンス』の真ん中で確かな存在感を放つこの曲が好きだ。《好きで 好きで 好きで/今 とても 辛いのです》――終わった恋への未練か、それとも終わりへの予感か、恋の美しさや喜びとまったく並列に寂しさや苦しさも見つめるあいみょんの視線の誠実さがじわりと心に染みていく。一切のギミックや手練手管を排除した先に残る、あいみょんというシンガーソングライターの核の部分が露わになっているような曲だ。ライブでも大事に歌われている曲で、たぶん彼女自身にとっても大きな意味をもっているのだろう。⑧裸の心
シングルとして(しかもドラマの主題歌として)この曲がリリースされたときの驚きは今もはっきり覚えている。ピアノやピアニカが印象的な、フォーキーなサウンド(アレンジはトオミヨウ)、穏やかなメロディ、言葉を一つひとつ置いていくような歌、そして《今、私 恋をしている/裸の心 抱えて》というピュアで切ないフレーズ。どれも、それまでのあいみょんが表に出してこなかった無防備さをたたえていたからだ。聞けば2017年には制作が行われていたそうで、メジャー1stアルバム『青春のエキサイトメント』の候補曲にもなっていたのだという。温存していたというよりも、今だからこそ出せたということだろう。この曲を聴くたびに、なんというか、古い日記帳を開くような思いになる。⑨愛を知るまでは
「愛」という言葉を使っていることからもわかる通り紛れもないラブソングではあるのだが、これは恋愛の歌ではなく生き方についての歌だ。この曲のリリースは2021年だが、書かれたのは2017年。ちょうどメジャーデビュー1年目で、のちに彼女はこの時期を「しんどかった」と振り返っている。《いざ、手のなる方へと/導いたのは 誰でもない自分自身なのに/自信がないよ 笑っちゃうな》というのは当時のあいみょんの率直な心情であり、《愛を知るまでは死ねない私なのだ!》のびっくりマークは、自分自身に向けた鼓舞の証だ。思いっきりストレートでスタンダードなメロディは、シンガーソングライターとして生きていくという決意表明だったのかもしれない。⑩双葉
NHK『あいみょん18祭』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲。18歳世代に向けて彼らとともに作るというシチュエーションがあいみょんの新たな一面を引き出していて、それは《君も大人になったら/恋をするんだよ》というフレーズに象徴されている。「大人」であるあいみょんから、これから「大人」になっていく「双葉」たちへのメッセージ。これほど明確な矢印をもったメッセージソングは、あいみょんの数多い名曲を振り返っても珍しい。それだけの時間をあいみょんはあいみょんとして過ごしてきたということだし、その中で生まれたさまざまな思いを《可愛く揺れなよ 双葉》という言葉に重ねて歌いかけるところに、あいみょんが手にした逞しさを感じる。関連記事はこちら。
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