rockinon.comでは、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2025年4月号のインタビューから内容を一部抜粋してお届けする。
インタビュー=小川智宏 撮影=ROB Walbers(UN +PLUS UN)
──『SINGLE 1』『SINGLE 2』と出してきて、今回の『3』で3部作が完結します。ここまでやってきてどうですか?いろいろなものを見つめ直して「さらに上へ」っていうところで、ずっと試行錯誤をしてた。「どうすれば次のフェーズに行けるんだろう」ってもがいてました(川上)
川上 『But wait. Cats?』を出して、もう一回いろいろなものを見つめ直して「さらに上へ」っていうところで、ずっと試行錯誤をしてましたね。「どうしたらいいんだろう、どうすれば次のフェーズに行けるんだろう」ってもがいてました。そういう数年間だったなあ、と思いますね。
──やっている中でそこの出口みたいなのは見えた?
川上 うん、見えましたね。自分たちの作品をもう少し丁寧に扱うというか。『But wait. Cats?』がゼロベースというか、出たものをそのまま出したアルバムだったとしたら、もう少し1から100に仕上げていくっていうところが必要だなと思った数年間だったんで、そこの高みを目指すっていうところですね。メンバーだけでとか、俺ひとりだけでとか、集中する期間を結構設けて、期限に追われるでもなく、一旦気ままに、自分とは何か、自分の曲は何がいいのかっていうのに集中して答えを出していくということができたなと思います。毎日とにかくスタジオに入って、とにかく音を出してみる。鼻歌レベルでもいいし、曲はできなかったけど、でもよく思い出してみるとリフはできたとか、ちょっとしたフレーズはできたとか。とにかく集まって出そうとするというのが大事だなっていうのは思いましたね。
リアド 今、こうして『SINGLE 1』『SINGLE 2』『SINGLE 3』の曲を見てみて、やっぱり全部思い出がある曲なんですよ。他にも曲結構いっぱい作ってたけど、そういうのも同時進行でやりながら、手応えを感じていたというか。曲調はバラバラかもしれないけど、ちゃんとここに残った曲たちだなと思いますね。
──洋平さんは「丁寧」という言葉を使いましたけど、ここのところの曲たちを聴いていると、これまで積み上げてきたものをちゃんと見つめながら、[Alexandros]のロックをもう一度見直すようなプロセスだったのかもなと思ったんですよ。
川上 ああ、そうかもね。昔からアルバムを作ったら次のアルバムは1個前のアルバムを忘れる、捨てる、超えるっていうところを三原則として守ってきた節はあるので、この15年、「超えていく」っていうところがキーワードでしたけど、特に今回はそう思いました。
──“金字塔”はどういうふうにできていったんですか?
川上 まずはリズムからできていったんですよね。昔の俺のストック──ボイスメモがあるんですよ。スマホの中にあるやつじゃなくて、メンバーから誕生日プレゼントでもらったソニーのレコーダー。片付けていたらそれが出てきて、懐かしいなと思って聴いてみたんです。その中で1トラックだけ耳に残るドラムのパターンがあって、「これいいな」と思ったんです。それが今の“金字塔”の冒頭のドラムのパターン。もっと遅いバージョンだったんですけど、それがすごい耳に残ったんです。で、それをリアドに送って「これをちょっと今の我々として叩いてみたらどうかな」って。リアドの解釈で叩いてもらっていいですかって。それでもう少しBPMを速くして、とかいろいろオーダーしながら、まずリズムから構築していきましたね。
──ちなみにそうやってめちゃくちゃ古いトラックから「やるか」っていうことってよくあるんですか?
川上 いや、あまりないですね。しかもリフとかはない。メロディを「昔こんなのあったね」って引っ張り出してくることはあるんですけど、リズムパターンとかは初めてでした。でもやってみて、リアドが叩いたらまた全然違う雰囲気になったので、これは面白いなと。それで、3人にB面の“Coffee Float”を作ってもらっている間に、いただいたドラムのパターンを使ってメロディを作って、って2軸で作っていったんですけど。
今の(リズム)パターンができたときに「今のはいいんじゃない? “Waitress, Waitress!”を超えたんじゃない?」って洋平が言ってくれたんです。その一言は覚えてますね(リアド)
──今回2曲ともリズムがキモになっている曲なんですけど、特に“金字塔”のイントロのドラムはかなり面白いですよね。[Alexandros]がずっとやってきたシグネチャーみたいなものを、今の4人でちゃんとアップデートするっていう感じで。
リアド そうですね。面白いし、シグネチャー感もあるし。少し“Waitress, Waitress!”を彷彿とさせるがゆえに、そこも超えたいという。今のパターンができたときに「今のはいいんじゃない? “Waitress, Waitress!”を超えたんじゃない?」って洋平が言ってくれたんです。その一言は覚えてますね。そこもうっすら意識しつつやっていました。そこが大事な曲かなと思いました、“金字塔”は。
──この曲を聴いたファンは間違いなく“Waitress, Waitress!”を連想すると思うんですけど、だからこそそこを超えるっていうハードルがあった。
リアド あの曲にもすごいリスペクトがあるし、リズムパターンとか曲の構成とかも含めてすごいなって思うんですよね。今でもセットリストに入る、[Alexandros]といえばっていう曲になってるし。だから今後ね、そこと肩並べて超えていくぐらいの曲にしたいなっていう思いはありました。
──そのハードルの課し方が今までとちょっと違う感じがするんですよね。新しいものを作って塗り替えていくというよりも、本当に真っ向勝負で過去を超えていくっていう。
川上 そこまで深くは考えてなかったですけどね。そのときは「このリズム面白そうだな」っていう感じだけで。でもリアドにドラムをもらったときに、これは自分の中で久々にテンションが上がる曲だなと思いました。ここ何年かは「いい曲」作りファーストというか、バンドの「かっこよさ』ファーストではなかったなってちょっと思った部分があって。メロディを立てることも大事なんですけど、もう少しリズムのアレンジをフィーチャーするような曲が欲しいよねっていうのが自分の中ではあったんです。だからもしかしたら無意識にドラムを探してたんでしょうね。あのトラックを見つけたときは生でやったらどうなるかなって楽しみだったけど、(リアドに)叩けるのかな?とも思ってたんです。でも叩いたのを聴いたらかっこいいなと思った。
──今あらためてリズムに意識が向いたのは何か理由があったりするんですか?
川上 8ビートの曲が多かったんですよ。“Boy Fearless”は違うけど。
リアド 確かに。
川上 だからここいらで違うアクセントで違うリズムパターンで曲を作りたいって思ったんでしょうね。やっているとどんどん飽きていくので。
──というときに、さっき「叩けるのかな?」とも言っていましたけど、一方で今のリアドさんなら叩けるだろっていう確信もあったんじゃないですか?
川上 そうですね。もう何年だ? 2019年から[Alexandros]でやってるからね。それを考えると、「それはもう[Alexandros]でしょ」っていう。ミスター[Alexandros]になってるから、ここいらでちょっと発明が必要だと思って。これをきっかけにまたどんどん新しいのを作ってほしいなっていうのもあるし、作りたいっていうのもありますからね。今までは、どちらかというと「今までの[Alexandros]を再現しよう」というのが強かったと思っているんです。そこから殻を破りたいんだけど、ちょっと[Alexandros]の仕事が多かったというか。ライブでも“city”だったり“Waitress, Waitress!”だったり、“ワタリドリ”だったり。そういう曲はそれを捨てて次にっていうにはあまりにも大きすぎたし、重すぎたんですよね。それをようやく捨てているような感覚で挑めてると思う。特にリアドは。
リアド 今話を聞いて確かにと思ったんですけど、そういう流れはあって。逆にそういう流れの中で昔の曲やるとまた違ったものになる面白さがあるかもしれないですね。セットリストに新曲が並んだときに、久しぶりの曲も違う感覚でできるし、違うアレンジになっていくし。そもそも同じドラムは叩けないと思っていたし、そこを再現するんじゃなくて、っていう理想はあったけど、現実問題としてそこと戦っていくのもゼロにはできない。そういう部分ではずっと戦いがあると思うので。それも楽しいですけど、少し時間が経ってきたんだなっていう感じですね。
川上 でも、リアドが入ったときから、僕たちの気持ちとしては「[Alexandros]です」って感じだったんですよ。特に気負ってるわけでもなく、重みも感じてはいなかった。だから別に大変だなみたいな感じもそんなになかったんです。ただ、自分たちはそうだったけど、周りの声だったり、曲を実際やったときの感じを受けると、やっぱりそれなりに重いものをここまで作ってきたんだなっていうことは、あとになってだんだんわかってきた。人が違うだけで実際に違うし、でもそれが「前よりいいんだよ」とか「前を超えたんだよ」っていうところを示すっていうのは、そんなに簡単なものではないんだなって。
リアド まあ、いろいろな意見があっていいと思うし、違うこと言われたら「違うよ」って思うけど、それはわかってたことだから。