①色水
この“色水”でおいしくるメロンパンというバンドに魅了された人も多いだろう。2016年12月にリリースされた1stミニアルバム『thirsty』に収録されているが、それ以前に自主制作のシングルとして、バンドが最初にリリースした楽曲である。「RO69JACK 2016 for ROCK IN JAPAN FESTIVAL」ではこの楽曲によってリスナーから高い評価を受け見事優勝。おいしくるメロンパンのポップとダークが絶妙に絡み合う独自の音楽性と3ピースの高い演奏力、そしてナカシマの透明感と影を同時に感じさせる魅力的な歌声が広く世に知られるきっかけとなった。サビ歌始まりで心を掴まれると、そのままラストまでその音から一瞬たりとも耳を離すことができない。変拍子を取り入れたビートや立体的にうねるベース、軽やかさと深みを併せ持つギターが放つ音像は、彼らがいわゆる普通のギターロックバンドとは一線を画す存在であることを物語る。『thirsty』リリースと同タイミングで公開されたMVは今や(2023年6月現在)730万回再生を超え、リリース当時から常にライブでも客席のテンションがグッと上がる不動の人気を誇る楽曲のひとつ。②シュガーサーフ
性急なビートで展開するスリリングなバンドサウンドに魅了される1曲。おいしくるメロンパンの魅力を語るうえで「リフ」は重要なキーワードであるが、この曲はまさにベース&ギターのリフがとても印象的。このバンドにおいてベースはリズム楽器でありながら、時折ギターと対峙する上モノとしての響きも併せ持つ。それがおいしくるメロンパンの3ピースサウンドの面白さ。それを存分に感じさせてくれるのがこの“シュガーサーフ ”である。駆け抜けるような展開とメロディアスな歌。ライブでは流れに変化を持たせる楽曲として長くセットリストに組み込まれて続けている。歌詞は抽象度の高い表現でありながら、薄曇りの海辺の風景がまるで1枚の絵画のように明確に思い浮かんでくるから不思議だ。こうした心象風景の描き方にもナカシマの類稀なるソングライターとしてのセンスを感じる。1stミニアルバム『thirsty』収録。③look at the sea
2ndミニアルバム『indoor』収録のこの楽曲が持つ陽性のメロディラインは、のちの『cubism』〜『answer』期にも通ずる開放感を感じさせる。とてもキャッチーなメロディでありながら、アレンジや構成にはやはりおいしくるメロンパンらしい捻りや動きが存分に効いている。イントロの3ピースのアンサンブルから、ドラムとベースだけで進行するAメロ、そして自然にギターが重なりサビへとナチュラルに移行する滑らかさを、今一度じっくりと味わってみてほしい。「3人の音」にこだわる彼らの矜持はこうした何気ないアレンジにこそ宿る。歌詞はどこか厭世的なラブソングといった趣で、自分たちだけの世界を世俗に汚されないようにと願う歌詞は甘い狂気を孕んでいるとも言える。ポップなのに不穏。そんなおいしくるメロンパンの魅力が凝縮された初期の代表曲のひとつだ。④あの秋とスクールデイズ
一度耳にしたら忘れられない曲である。スピード感のあるギターサウンドと《情けないな》と繰り返す歌詞。おいしくるメロンパンの楽曲の中でも珍しくストレートなタイトルを持つこの楽曲は、過去への悔恨と消えることのない痛みを歌ったものなのだろう。何度胸の奥に沈めても浮かび上がる思考を《情けないな》と自虐的に歌うナカシマの歌は、楽曲が進むごとに切実さを増して胸を締め付けるように響く。1コーラス目と2コーラス目ではサウンドアレンジに変化を加えながら、その音像が心の痛みを繊細に表現して、歪んだギターソロやシャウトが過去に囚われる思念をかき消すように炸裂する。おいしくるメロンパンの楽曲の中では少し特異なテーマを持つ楽曲だが、この曲もまたライブで人気を博す曲である。2ndミニアルバム『indoor』収録。⑤水葬
3rdミニアルバム『hameln』に収録された、おいしくるメロンパンの楽曲の中でもディープでダウナーな気分を伴う楽曲のひとつ。リバーブの効いたギターサウンドはまるで水底に沈んでいくような抗いがたい没入感を生み出している。ミニマルなバンドサウンドにのせて、ひとつの喪失に想いを馳せるように静かに歌うナカシマの歌。《月夜の水葬》そして《秘密の追悼》とそれぞれ対をなすように綴られた歌詞は、誰とも共有することのない、自分だけのひそやかな喪の時間を表している。非常に深く、美しく、そして儚さを感じさせる楽曲であり、ナカシマの虚無的な死生観の中に寂しさや悲しさが滲んでいる。ライブでの演奏ではさらに冥界へと誘われるような、浮遊とも潜行とも言い切り難い、あやうい心地好さに包まれる1曲だ。⑥epilogue
4thミニアルバム『flask』収録。明るいトーンのギターサウンドと《空と涙 溶け合って》という爽やかな歌い出しが夏の空気を感じさせる曲。しかしそんな夏のまぶしさを描きながら「終わり」を歌うというのが、とてもおいしくるメロンパンらしい。特に《掌すり抜けて落ちた水風船》と歌ったあとに続くギターのフィードバック音は、何かが壊れて失われたことを明確に感じさせるパートだったりもする。爽やかで甘酸っぱい青春ソングの体で、やはり緻密に展開する楽曲構成やアレンジが、しっかりと夏の日差しが生み出す「影」をも表現している。ラストのスキャットやギターアルペジオなどは、その明るさの分だけ痛みも感じさせるから不思議だ。おいしくるメロンパンには「夏」を描く楽曲がとても多いが、その光と影が織りなすコントラストを魅せることこそがバンドのテーマなのかもしれない。“epilogue”からはそれを明確に感じ取る。⑦斜陽
5thミニアルバム『theory』のラストに収録された曲。『theory』は、まるで抽象画を描くようなナカシマのソングライティングが極まった作品であり、収録曲の“亡き王女のための水域”や“架空船”などは特に、かなり深く自身の音楽性に向き合ったような楽曲であった。そうしたディープで言わば少し内向きなモードは、季節で言えば「冬」の空や海を感じさせるものでもあった。だからこそ『theory』にはどこか春を待つような、バンドが外へと開いていく季節を見据えるようなイメージもある。今にして思えば次作『cubism』へとつながる楽曲がこの軽やかな“斜陽”だったのだ。『cubism』リリース以降のライブでも、この楽曲の持つしなやかさは最新曲とも呼応するように響いていた。歌詞にも、迷いの中にあっても「その先」へ進もうとする想いが滲む。彼らのアルバムの中でも実験的なモードが強い『theory』だが、ラストを飾るこの楽曲は明確にネクストフェーズを指し示していた。⑧Utopia
6thミニアルバム『cubism』は、おいしくるメロンパンがまたひとつ大きな扉を開けたような、音楽性の広がりを感じさせる作品となった。その『cubism』から先行リリースされたのが、この“Utopia”。弾けるようなきらめくポップネスは、これまでのおいしくるメロンパンにはないオープンなマインドを感じさせ、バンドが明らかに「外」を向き始めたことを告げた。そしてこの力強いロックサウンドに乗る歌詞を読み解くにつけ、そこには逡巡や不安もあったことを感じ取る。ここで歌われる「ユートピア」とは「永久凍土」に守られた閉じた世界。そこから外に出るということは痛みを覚悟することでもある。それでも変化を厭わない──つまりは、ポップに振り切れることを躊躇わないという姿勢はその後のライブにもビビッドな変化をもたらした。結果、『cubism』はおいしくるメロンパン史上初となるオリコン1位を記録し、その後に続くバンドの音楽性の拡張にドライブをかける形となった。⑨ベルベット
おいしくるメロンパンのポップネスを躊躇なく解放してみせた『cubism』。そのオープンなモードをさらに押し進めてアップデートさせたのが7thミニアルバム『answer』だ。このアルバムは「ポップであること」や「わかりやすいこと」をこれまでになく肯定的に捉えた作品となった。その迷いのないモードを体現するかのような楽曲がこの“ベルベット”だ。サビ歌から弾けるように始まるこの楽曲は、これまでの彼らの楽曲の中でもとびきりキャッチー。歌詞もおいしくるメロンパンにしては珍しく、語感の面白さで遊ぶように韻を踏んでいたりする。リリース時のインタビューでナカシマが「最近の曲を聴いたりすると、メロディや歌詞を追ってるだけでも楽しい曲が多いですよね。それを自分がやったらどうなるんだろうと思って。(中略)そういうのを自分の中に取り入れたとしても、ちゃんとおいしくるメロンパンとして成立させる自信がある」(ROCKIN’ON JAPAN 2023年6月号より)と語っていたのが印象的だった。その言葉の通り、新機軸を思わせるブライトでポップなロックサウンドでありながら、紛れもなくおいしくるメロンパンの3ピースサウンドとして耳に残る。バンドが様々な色に染まる、変化していくことを恐れない、そうした想いを感じ取るような、とても力強いメロディを持つ楽曲である。⑩マテリアル
『answer』はおいしくるメロンパンというバンドが描き続ける世界観を、より明るく、風通しよく見せてくれる作品になった。その中でもこの“マテリアル”ほど、わかりやすくおいしくるメロンパンのアンサンブルの魅力を語れる楽曲もないだろう。ポップとダーク、甘さと苦さ、瞬間と普遍、シンプルと緻密──相反するものを同時に表現できるのがおいしくるメロンパンである。その魅力をこの“マテリアル”があらためて実感させる。何よりサビの解放感は格別。この曲については峯岸も「とにかく1サビの爆発力。あのサビが来た瞬間、そこにアルバムのすべてが集約するような印象がある」と自ら評していたが、まさにその通りの清々しさがある。シンプルなリフにキャッチーな歌メロが乗り、おいしくるメロンパンが描き続けるテーマのひとつである、繰り返される「季節(夏)」や「生」が、いつになくポジティブな響きで表出する。こうしたテーマはすべて、1st『thirsty』の頃から変わらずバンドが大事にしてきたものである。それがこの“マテリアル”でわかりやすく花開き、『answer』という傑作アルバムの完成へとつながった。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』6月号においしくるメロンパンが登場!
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