アルバム『ANTI ANTI GENERATION』で、
RADWIMPSのオリジナルアルバムはインディーズ時代から9作、『君の名は。』サントラを含めると10作ということになる。10代の頃からアルバム制作に取り組み続けているのだから、レコーディングアーティストとしての経験値は膨大だ。ここに挙げられた10曲は、RADWIMPSの成長・進化の道のりを伝えるだけではなく、彼らが如何にしてフレッシュさを保ち、支持を獲得し続けてきたかを考えさせてくれる10曲になっていると思う。そのメッセージと同じように雄弁で情緒豊かなサウンドに、あらためて注目してみて欲しい。(小池宏和)
(2019.11.28更新)
① なんちって
メジャーデビュー以降も長らくライブの熱狂を担ってきた、インディーズ時代からのナンバー。現行ラインナップの4人が揃い、熱く咆哮を上げる桑原彰(G)のギターリフ、うねりまくる武田祐介(B)のベースライン、重さとファンキーさを兼ね備えた山口智史(Dr)のビートと、見事にパンク/ラップミクスチャーのツボを押さえたサウンドに仕上げられている。ユーモラスな言葉選びの中から挑発する野田洋次郎(Vo・G・Piano)のベーシックスタイルがすでに確立されている点も見事だ。
② 25コ目の染色体
RADWIMPSの記念すべきメジャーデビューシングルは、優しく静謐なオープニングから、ダイナミックに展開する懐の大きなナンバーになった。宗教や科学など、大衆性を裏付ける知識の切り口を通して歌うべきテーマを掴んでくる野田の、壮大なイメージの広がりを後押しするバンドサウンドが証明されている。RADWIMPS登場の衝撃とは、若き4人の「言葉と音の雄弁さ」に他ならなかった。論理的でありながら、途方もなくロマンチックでもあること。それがRADWIMPSのRADWIMPSたる所以だ。
③ トレモロ
シングル曲でもなければ何かしらのタイアップ曲でもない。にも関わらず、今日に至るまでライブでプレイされ続け、何ならハイライトを担うことさえあるナンバー。それはこの曲が、極めて普遍的で根元的なテーマを歌っているからだろう。人はなぜ、無力感に苛まれながらも生きるのか。音程に変化を加え続けるトレモロ奏法のように、思い悩み、震え、決意して進む日々には意味がある。儚い瞬きのような、エモーショナルな疾走感が胸に深い余韻を残す1曲だ。
④ ふたりごと
キラキラと夢見心地なサウンドスケープと力強いロックのアタック感を共存させ、くるくると表情を変えるRADWIMPSのアクロバティックなバンドアンサンブルが立ち上るシングル曲。野田のロマンチックな論理の暴走ぶりはまさにRAD版“関白宣言”(亭主関白なスタンスではまったくないのだが)と呼ぶべき痛快さだ。野田の歌は大切な人の命や存在を肯定するためならば、論理を暴走させることすら厭わない。後年の“オーダーメイド”にも通ずる強靭なテーマを宿した楽曲だ。
⑤ 有心論
『ふたりごと』に続くシングルの表題曲。《2秒前までの自殺志願者を 君は永久幸福論者にかえてくれた》という歌詞にも表れているように、パラレルに存在する未来の可能性をテーマにしている。MVも、《3分前の僕がまた顔を出す》パラレルな未来を伝える内容になった。有神論でもない無神論でもない「有心論」。機械のように正確無比なアンサンブルを奏でてから一転、直情的な演奏へとなだれ込むコーラス部分の演奏は、歌詞に込められた思いと完璧にシンクロしていて胸を焦がす。
⑥ おしゃかしゃま
ナンバリングを外した初のアルバム『アルトコロニーの定理』に収録された1曲で、後の“DADA”、“実況中継”、“AADAAKOODAA”などに連なる、先鋭的かつ衝撃的なロックチューンの走りとなった。インパクト絶大なイントロのギターリフを核とするグルーヴは、今日もライブ会場でオーディエンスを大きくバウンスさせ続けている。こんな曲調の中でも、むしろ活き活きとそれぞれに見せ場を生み出してしまうメンバーのプレイアビリティには舌を巻く。リアルな人間社会から抉り出された死生観が強烈だ。
⑦ 君と羊と青
2011年のアルバム『絶体絶命』に収録され、NHKサッカーテーマ曲となった。直接的に競技に関わる歌詞が書かれているわけではなく、後の“カタルシスト”とは趣が異なるが、ファンファーレのようなギターフレーズといい、野田の巧みな言葉遊びによるタイトルといい、テーマ曲としての役割をきっちり果たしている。清冽極まりないサウンドとアレンジが導く野田のメッセージは、東日本大震災の後も、毎日を支えるエールとしてタフに鳴り響いてきた。
⑧ 会心の一撃
大掛かりなドラマ仕立てのMVは、歌詞の最終センテンスと相まって感動的なフィナーレを迎える。いつでも斬新で実験的な楽曲に挑み、また数々の名バラードを生み出してきたRADWIMPSではあるが、ここぞというときに超ストレートなロックの爽快感をもたらす楽曲を残してきたことが実はとても重要。こういった楽曲があるからこそ、彼らのライブは熱狂と感動を逃すことがない。《~的》の韻律から迸るような執念を導き出す、反骨精神の塊のような1曲である。
⑨ 前前前世
言わずと知れた映画『君の名は。』主題歌にして大ヒット曲。「君」との関係に無数の言葉を費やしてきた野田の姿にはどこか懐かしさを覚える。研ぎ澄まされた曲調の中でも武田のベースは雄弁に語り、桑原のギターはあるときは幻想的に、あるときはギラつきながら鳴り響いている。驚くほど整理されたキャッチーさを追求し爆走するRADWIMPSの姿が、そこにはあった。山口が休養期間に入ってからも、彼らは足を止めることなくむしろ加速するように、前進したのだ。
⑩愛にできることはまだあるかい
『君の名は。』に続き、RADWIMPSは新海誠監督作品『天気の子』の劇伴と主題歌を手がけた。“愛にできることはまだあるかい”はそのメインテーマと呼ぶべき2019年夏の聖歌。無力感に苛まれながら循環するメロディと言葉は、《果たさぬ願いと 叶わぬ再会と/ほどけぬ誤解と 降り積もる憎悪と/許し合う声と 握りしめ合う手を/この星は今日も 抱えて生きてる》という視界を描いてゆく。人生の主導権を握るエネルギーはどこにあるか。愛を歌うRADWIMPSと、傑作映画の主題が遥かな高みで共鳴するナンバーだ。