① 勝手にシンドバッド
衝撃のデビューシングル曲。サンバ/ラテンファンクのアップリフティングなリズムとロックの爆発力が融合したナンバーだ。タイトルは、前年のヒット曲である沢田研二“勝手にしやがれ”、及びピンク・レディー“渚のシンドバッド”にあやかったというエピソードが有名だが、大胆な音のミクスチャー感覚を裏付けている気もする。まくしたてるように早口な歌メロは、音楽番組『夜のヒットスタジオ』出演時に番組史上初の歌詞テロップを導入させたほど。② いとしのエリー
『勝手にシンドバッド』、『気分しだいで責めないで』という初期のアップテンポなシングルに続いてリリースされた3作目のシングル曲で、フィル・スペクター風の夢見心地なコーラス処理から始まる珠玉のソウルバラード。シングルとしては初めて、普遍的で美しいグッドメロディを提供することのできるサザンをリスナーに印象付けた。オリコン週間チャートでは最高2位を記録。サザンは同年、この曲で初めて『NHK紅白歌合戦』出場を果たした。③ 匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB
サザンが得意とする、歌謡テイストを取り入れたディスコナンバー。ホーンとストリングス風シンセを導入したリッチなアレンジになっている。さながら、フィラデルフィア・インターナショナル・レコードや初期サルソウル・レコーズといったディスコの名レーベルのサウンドを、日本のポップの文脈で展開したかのようだ。「匂艶(にじいろ)」という当て字の言葉選びはセクシーなムードを助長しているが、レインボーカラーはサルソウルのレーベルロゴにも用いられている。④ みんなのうた
『KAMAKURA』のツアーの後、サザンは約2年半の活動休止期間に入ったが、1988年、デビュー10周年の記念日にリリースしたシングル『みんなのうた』でシーンの最前線に帰還し、勢いよく新たなフェーズへと突入する。タイトルどおり、大きな包容力を感じさせるメロディと歌詞、バンドグルーヴの強烈な祝祭感が育まれ、それまでになかったタイプの斬新な名曲が生まれた。今日に至るまで、ライブのハイライトを担い続けているナンバーである。⑤ 真夏の果実
桑田佳祐による初の監督映画『稲村ジェーン』は、1990年9月、残暑の中で劇場公開された。SOUTHERN ALL STARS and ALL STARS名義による同名サウンドトラックも大ヒットしたが、“真夏の果実”はその先行シングル曲。熱い官能の記憶を、深い悲しみの詩情が追い越してゆくバラードであり、過ぎ行く夏の、胸をヒリヒリとさせるヒューマンドラマに相応しいテーマ曲であった。多彩な活動によってこそ生まれた名曲である。⑥ マンピーのG★SPOT
“シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA”、“エロティカ・セブン EROTICA SEVEN”と並び、「エロス3部作」と称されるナンバー。ハードなオルガン・ロックンロールの中、桑田はあの手この手の巧みな比喩表現を用いた歌詞で、エロティックな情景と心模様を伝える。強烈なのは《芥川龍之介がスライを聴いて/“お歌が上手”とほざいたという》というライン。偏狭な文学性だけで音楽の肉体性を捉えようとすることの滑稽さ、愚かしさを、抉り出しているように思える。⑦ LOVE AFFAIR〜秘密のデート
90年代半ばから続いてきたバンドのセルフプロデュースが、目一杯花開いたポップチューン。不倫恋愛を題材にしたTVドラマ『スウィートシーズン』のエンディングテーマである。横浜のデート名所を小気味好いメロディで連呼するサビ部分も含めて、ドラマのテーマや舞台に寄り添った作風だ。秘密のデートに身を委ねる刹那的な思いを、甘美なサウンドが全力で彩っているさまが尚更儚く、切ない。秀逸なタイアップ曲でもヒットを飛ばすサザンの、お手本のような曲だ。⑧ TSUNAMI
こちらは映画やTVドラマではなく、バラエティ番組『ウンナンのホントコ!』内の恋愛ドキュメンタリー企画『未来日記Ⅲ』テーマ曲。2000年1月、シーズンがフィナーレを迎えた直後にシングルがリリースされ、この年だけで288万枚以上(オリコン)を売り上げ年間ナンバー1、今日までのキャリアでも最大のヒットとなった。奇を衒うことなく、培われた技術と経験から滲み出るような、タイムレスなグッドメロディが伝う。当時の若い世代にも、ここからファンになった人は多いはず。⑨ 東京VICTORY
2013年のデビュー記念日に約5年間の活動休止期間が明けると、同年の『ピースとハイライト』に続いてリリースされたのが、2014年の『東京VICTORY』であった。いくつかのタイアップが付いているけれども、前年に決定した2020年夏季オリンピックの東京開催を嫌が応にも連想させる。少年少女時代に1964年の東京オリンピックを体験しているはずのサザンは、今の日本に向け、この歌をエールとして、チャントとして、アンセムとして届けたのだ。