【10リスト】私たちの心を揺らしたSUPER BEAVERの名歌詞10

【10リスト】私たちの心を揺らしたSUPER BEAVERの名歌詞10
紆余曲折を経ながらも、自分たちの信念を貫き、真っ正直に音楽を鳴らし、ライブをやり、止まることなく歩み続けてきたSUPER BEAVER。その楽曲の中から名歌詞を10個セレクトしたのがこのコラム、なのだが……「SUPER BEAVERの名歌詞」というのは、実は言葉としてほとんど意味がない。なぜならSUPER BEAVERとはそもそもが素晴らしい歌詞と歌の力によってここまで進んできたバンドだからだ。彼らの歌詞はすべて名歌詞だし、そこにこそ、このバンドのアイデンティティはある。だから、ここに挙げた10の歌詞はあくまで一例である。きっと聴く人それぞれの置かれた状況、時代、場所によって、それぞれに刺さる言葉があるだろう。このコラムで気になったら、ぜひ自分だけの名歌詞を探し出してほしい。(小川智宏)


①未だ見ぬ明日へ
《隠しきれない本当を 誤魔化したのはいつだって/嘘を嘘と認められない自分で/そんな弱さを 愛せた時に 広がるのだろう/新しい世界がきっと》

2009年にリリースされた1stフルアルバム『幸福軌道』に収録された、緊迫感溢れるロックナンバー“未だ見ぬ明日へ”。メジャーデビュー、そして満を持してのフルアルバム、まさに《新しい世界》へと突っ込んでいくその刹那に、自分で自分を奮い立たせるようなこの曲が生まれたのは必然だったのだろう。「本当の気持ちを隠すな」、「嘘をつくな」というメッセージソングは世界中に数限りなくあるし、強くなりたいと願う曲もいくらでも思いつくが、この曲でSUPER BEAVERが訴えているのはそういうものとはまったく違う。人間である以上、気持ちを誤魔化すこともあるし、嘘を認められないことだってある。そんな人間の姿をそのまま受け止めたうえで、なおそんな《弱さ》を愛することが人を変えていくんだ、というこの曲のテーマは、その後脈々と繋がっていくSUPER BEAVERの物語においても決してブレることなくメッセージの芯になっている。

②まわる、まわる
《国籍も 環境も 時代も 言葉も 髪や 肌の色も/幸せの価値も 意味も 何もかも違う そんな僕らにただ/与えられたそれぞれの命に 託された命題は一つだけ/「生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きろ」》

最初のメジャー期最後の作品となったセルフタイトルのミニアルバムに収録され、それから10年を経て、メジャー再契約一発目のシングル『ハイライト / ひとりで生きていたならば』でセルフリメイクされた、いわばSUPER BEAVERにとってマイルストーンのような楽曲であり、彼らがいかに変わらずに変わり続けてきたか、つまり「まわり」続けてきたかを証明する一曲がこれだ。未来の自分への手紙という形式を取りながら全編これしかないという言葉で書かれている歌詞の中で、最も力強いのがこの一節。「僕」の個人的な思いが人間全体の《命題》へと直結していく、そのドラマティックな構図が圧倒的である。《国籍も 環境も 時代も 言葉も 髪や 肌の色も》、あらゆる違いを全力で肯定し、そんなものを超越した命の輝きに目を向ける。そう書くとどうもお題目っぽく見えるかもしれないが、《生きて、生きて》と連呼する渋谷龍太(Vo)の声には、たぎるような熱がある。

③your song
《「愛してる」違う そうなんだけど何かが違う/「ありがとう」違う 思ってるけどそれだけじゃない/「ごめん」違う 「バイバイ」違う 違う/君に何を言おう》

統計を取ったわけではないので確かなことは言えないのだが、SUPER BEAVERの楽曲はロックバンドの曲としてはきわめて言葉数が多い。柳沢亮太(G)の書く歌詞は、畳みかけるように言葉をまくし立てながら、果てしない問いかけを続けていく。それは、彼らが歌にしようとしているものが、決して言葉では言い表せない何かだからなのではないかと思う。誰にでもそういう感覚を覚えた記憶があるだろう。どうしても言葉で言い表せない気持ち、言葉にした瞬間に嘘くさくなってしまいそうな気持ち。この“your song”はまさにそういうことを歌っている。《「愛してる」》でも《「ありがとう」》でも《「ごめん」》でも伝わらない「何か」を伝えるために、彼らはバンドをやり、音楽を作っているのだ。だが、ここで《違う 違う》と歌っていたSUPER BEAVERは、後に“ありがとう”という曲を作り、『アイラヴユー』というアルバムを作った。彼らはそうやって少しずつ、「この気持ち」に名前をつけながら歩いてきたのだと思う。

④東京流星群
《僕にとっての故郷は 誰かの憧れ/誰かが鼻で笑ったのが 僕の宝だ》

ライブでは、ミラーボールに反射する光が降り注ぐ流星を描き出す中歌われ、ハイライトのひとつとなっている“東京流星群”。オンステージで繰り返し繰り返し、東京でも他の街でも演奏され続けてきた中で、この曲は楽曲自体が育ち、意味合いを変えてきた。この曲が書かれた時、東京出身者であるSUPER BEAVERが東京を《故郷》であると主張することは夢や希望の象徴として描かれる「東京」像へのある種の反発だったし、続く《誰かが鼻で笑ったのが 僕の宝だ》という1行には、自分たちへの確信とともに理解されないことへの悔しさが滲んでいた。だが《愛されていて欲しい人がいる/なんて贅沢な人生だ》と歌う“東京”を経た今、この曲は正反対の意味を持つ。「東京」を《故郷》と感じる自分たちにも《憧れ》と感じる《誰か》にも、理解し合えない者同士にも、「流星群」は同じように降り注いでいる。2021年のシングル『名前を呼ぶよ』のカップリングとして新録されたテイクをオリジナルバージョンと聴き比べれば、その変化がわかるはずだ。

⑤ありがとう
《「あなたに会えてよかった」なんて/どうでもいいほど 当たり前でさ/だけどね 言わなきゃね 死んじゃうから僕らは/ありがとね 愛してる》

この曲を初めて聴いた時のインパクトは今でもはっきりと覚えている。《死んじゃうから僕らは》というフレーズに、ぐいっと胸ぐらを掴まれたような気がしたのだ。今が大事だ、周りの人を大切にしよう、優しくありたい、正しくありたい……そんなことは言われなくても気づいているし、そんなことを今さら言葉にするなんて気恥ずかしい。それもわかる、だけどさ、とSUPER BEAVERは言うのだ。「だって、あっという間に死んじゃうんだぜ、俺たち」と。一度病気で生死の境を彷徨った柳沢だからこそ実感を持って書けた言葉であることは確かだし、彼にとってこの直接的な言葉がもつ切実さは僕らには計り知れないところがあるが、重要なのは、「死」という状態を、彼は決して暗いものとしては書いていないということだ。目の前に死が待ち構えているからこそ、今を生きることができる、言えない気持ちも言葉にすることができる。メメント・モリなんて外国語では伝わらない、燃えるような生への思いと愛が、この曲には溢れかえっている。

⑥証明
《あなたの目に映る顔を見て 僕の知らない僕を知った/産まれて死ぬまで一人なのは 誰も独りきりでは無いという「証明」》

『東京』に収録された“人間”という曲の「人間!」というシャウトもすごいが、この曲の《無いという「証明」》という叫びも、SUPER BEAVERじゃなかったら成立しないものだと思う。“まわる、まわる”で歌われていた、人それぞれの違いを肯定したいという思いの先で、この曲の「一人だからこそ独りきりじゃない」というメッセージは生まれている。誰もが人とは違う存在だからこそ人は誰かと出会うことができるし、そこから愛や生きている意味が生まれていくのだという、ある意味で残酷であると同時に本質的な「逆転の発想」は、安易に「君の気持ち、わかるよ」とか「一人じゃないよ」とか言われるよりも何百倍もリアルに誰かを救う。曲の終盤に畳みかけられるメンバー全員での合唱が、ライブハウスでもアリーナでも、フェスでもワンマンでも、そこに集まったたくさんの「独り」の心をこじ開けてきたし、これからもきっとそうであり続けるだろう。

⑦人として
《人は騙す 人は隠す 人はそれでも それでも笑える/人は逃げる 人は責める 人はそれでも それでも笑える》

この記事のいちばん最初に挙げた“未だ見ぬ明日へ”の歌詞を覚えているだろうか。あの曲は気持ちを誤魔化し、嘘をつく自分を認めるところから「明日」が始まるんだと歌っていた。そしてこの“人として”は、自分がそうであるように、きっとみんなもそうなんだと歌っている。そしてそれでも《信じ続けるしかないじゃないか/愛し続けるしかないじゃないか》と。先に挙げたこの曲の冒頭のフレーズは、そのまま意味を取るなら、騙したり逃げたりしながらも平気で笑えてしまう人の残酷で無情な一面を言い表しているものだと思う。だが、ストリングスが美しく響くバラードで繰り返し歌われる《人として かっこよく生きていたいじゃないか》という姿勢によって、この《それでも笑える》という言葉はその意味を思いっきり逆転させる。どんなに騙されようと、責められようと、その相手に笑いかけることのできる人の「かっこよさ」を示すものになるのだ。ものすごい歌詞だと思う。

⑧時代
《時代とはあなただ》

まあどれも素晴らしいが、現時点で個人的に柳沢亮太のベストオブ名文句を選べと言われたら、たぶんこれを選ぶだろうなというのがこの《時代とはあなただ》である。「あなたが時代を作る」ではなく《時代とはあなただ》。いろいろな解釈ができそうなフレーズだが、『アイラヴユー』というアルバムにこの曲が収録されていること、そのアルバムがコロナ禍という文字通り「時代」の荒波の中で生み出されたということ、そしてSUPER BEAVERがずっと「今を生きる」ということ、「人を愛する」ということ、「一人ひとりが違う人間なんだ」ということを歌い続けてきたという歴史を考えれば、この言葉が言わんとしていることは伝わるだろう。あなたが今ここに存在していること、それ自体がすべてだし、その中で僕も生きているし、ここからすべてが始まっていくという、最上級の「あなた」への肯定。それはつまり、ひと言でいうなら「愛」そのものだ。

⑨名前を呼ぶよ
《名前を呼ぶよ 名前を呼ぶよ あなたの意味を 僕らの意味を/名前を呼んでよ 会いに行くよ 命の意味だ 僕らの意味だ》

なぜ自分の子どもを名前で呼ばずに「お姉ちゃん」とか呼ぶんですか、みたいなことを『ミステリと言う勿れ』の主人公が言っていた気がするが、名前を呼び合うというのはそこに立場や肩書きを超えた人と人の関係があることの証明だ。コロナ禍でライブがほぼできない状態が続いた2020年を経て、2021年、SUPER BEAVERは年間83本という、彼らにしてみたら少ないくらいかもしれないが世の中的には圧倒的な本数のライブを全国各地で繰り広げた。そのテーマソングとなったのが、映画『東京リベンジャーズ』の主題歌としてリリースされたこの曲だった。「名前を呼び合う」、つまり1対1の親密な関係性をもって《会いに行くよ》と宣言するこの曲は、ライブの場で常にお客さんの前で気持ちの交換をし続けてきたロックバンドの信念を刻んだ、しかしロックバンドの物語だけにとどまらない、すベての人に向けてのラブソングだと思う。

⑩東京
《愛されたい 心の奥 望む僕にも 愛する人/愛されていて欲しい人がいる なんて贅沢な人生だ》

きっと柳沢は、“東京流星群”では書けなかった「東京」の姿を、時間をかけて、いろいろな変化を経てきた今だからこそ書くことができたのだろう。その「東京」の姿とはつまり、それこそスクランブル交差点のようにさまざまな方向に愛の矢印が飛び交い、入り組み、決して閉じることなく広がっていく人間模様だ。誰かを愛し、その誰かはまた別の誰かを愛している。はたまた、自分も誰かに愛されたいと願い、実際に愛され、そんな自分を愛してくれる誰かのことを愛している人もいる……そんな人と人の営みを、《贅沢な人生》と言い表したところに、《誰かが鼻で笑ったのが 僕の宝だ》と歌う“東京流星群”からの変化を見ることができるだろう。ちなみにこの曲には「東京」という言葉はただの一度も出てこない。彼らが描きたかったのは場所としての東京ではなく、心の中にある人間の故郷のことだったのだ。


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