FM802の春のキャンペーンソングを個人的にいつも楽しみにしている。
毎年異なるアーティストが、新しい春を迎えるリスナーに届けたい歌を書き下ろし、豪華なボーカリストたちが歌唱で参加するこの企画。これまでにもたくさんの名曲が生まれていて、クリープハイプの“栞”が2018年にこのキャンペーンに書き下ろされた曲だったと言えば、驚く人もいるのではないだろうか。さらに、2019年にaikoが書き下ろした“メロンソーダ”では、かねてよりファンであることを公言していた藤原聡(Official髭男dism)や上白石萌歌が歌唱で参加するといったような、この企画ならではのミラクルなコラボが繰り広げられるところも注目ポイントのひとつだ。
FM802開局35周年という節目でもある2024年のキャンペーンソングは、SUPER BEAVERの柳沢亮太(G)が書き下ろした“はなむけ”。目を逸らしたくなる気持ちを肯定し、いつの間にか心に蓋をしていたことに気づかせてくれるような、人の本音に踏み込んだメッセージソングだ。ボーカリストには、アイナ・ジ・エンド、大橋卓弥(スキマスイッチ)、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、片岡健太(sumika)、サイトウタクヤ(w.o.d.)、TERU(GLAY)、TOMOO、ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)という豪華な8名が揃った。
人が変わっていく姿。もちろん喜ばしい場面もあると思うけど、必ずしもそうではなくて、寂しさを抱いたり、疎外感を感じたり、「あいつ変わっちゃったよね」と否定的なニュアンスで捉えてしまうことも少なくない。
一方で、これまでとは違う環境で生活をスタートさせたり、新たな目標ができたり、大切なものが増えたり、そういった出来事が人を変化させるのも当然。本人が進んで変化を遂げている場合もあれば、適応するためにはそうするしかなかったということだってある。
《変わることの 魅力と戸惑い 変わらざるを得ないもどかしさ》という歌詞は、そんな双方の想いをすくい上げてくれるからすごい。人の変化に直面したときに、その人の背景にまで想像力がはたらくように歌いかけてくれる、自分の中にある優しい気持ちを取り戻させてくれる曲だ。春の季節だけでなく、新年度が始まって2ヶ月が経とうとする今も、この先の未来でも、この歌詞によって自分を省みる瞬間がきっと人生で何度も訪れると思う。
人が何よりも大切で、想像力を持つことによってお互いを理解しようとする。そういう歌をSUPER BEAVERでも数多く届けてきたけど、どうしても相容れない人が中にはいるということもこの歌では隠さない。
当たり前のことのはずが、《人と違う だって 人が違う》と言われてハッとさせられる自分がいた。人が違うのだからぶつかることだってあって、《無闇に人を傷つけ哀しませること以外は 全部/おかしくない》のだと、すべての人の気持ちを軽くしてくれるのだ。
SUPER BEAVERの曲は、まっすぐに芯が貫かれていて、どんなときも正しくて、曲がったことなんて許されないかのように感じている人もいるかもしれない。
でも、ここ数年のビーバーの曲は、揺れ動く気持ちや、白黒つけられない感情に寄り添う歌が増えている。“はなむけ”は、まさにそんなメッセージと地続きになっている。
そしてそれを前述した色とりどりの8名のボーカリストが歌うことで、より普遍的なメッセージに昇華された。
柳沢が以前にもその声や表現力を絶賛していたアイナ・ジ・エンドの歌唱は見事にハマりいいアクセントになっている。好きなことを続けることの尊さをそれぞれに歌い続け、お互いバンドがピンチの時にはいつも助け合ってきた盟友・片岡健太(sumika)が、柳沢が書いた歌を歌うというのも感慨深い。そして、柳沢があとにも先にもこんなにハマったアーティストはいないといろんな場面で公言していた、彼の音楽人生の原点ともいえるレジェンドGLAY・TERUが参加したことはあまりにドラマチックな話だ。
この曲が聴けるのは9月30日(月)まで。期間限定なのはとても惜しいが、この間にぜひ何度も聴いてほしい。(有本早季)
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今年のFM802春のキャンペーンソング“はなむけ”は、春を越えた先でも何度も心を柔らかくしてくれる名曲
2024.05.25 17:30