①悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
《やがて誰かと 恋におちても/胸に残る言葉は 消えないままに/泣くのはやめて 愛しい女性(ひと)よ/君のことを今も 忘れられない》KUWATA BANDで約1年限定の活動を経てきた桑田佳祐が、1987年10月6日にソロデビューを飾ったシングル曲。取り上げたのは2コーラス目にあたる歌詞で、終わりゆく恋のヒリヒリとした余韻を、軽快なモータウンポップの曲調の中で弾けさせるように歌い込んでいる。タイトルどおりの悲しいラブソングである。サザンオールスターズという表現装置の活動休止中に、「ただの一人の男」として歌ったこの曲は、オリコン週間2位(それまでのサザンのヒット曲も最高2位)を記録。ロック/ポップスターであることを堂々証明する代表曲となった。『MVP』には新規制作ビデオが収録される。
②祭りのあと
《底無しの海に 沈めた愛もある/酔い潰れて夜更けに独り/月明りのWindow/悲しみの果てに おぼえた歌もある/胸に残る祭りのあとで 花火は燃え尽きた》2度目のソロシーズン、アルバム『孤独の太陽』の直後となる1994年10月31日にリリースされたシングル。オーガニックで豊穣なバンドサウンド(この時期の特徴だ)に支えられたミドルテンポのナンバーであり、たっぷりと哀愁を含ませながらも粋な筆致で綴られた、季節感漂う失恋ソングになっている。シングル曲ということもあってか、言葉の抑揚と物語の抑揚、ブルージーに映える節回しがピタリと一致して伝わる、ポップソングの教科書と呼ぶべき歌詞である。桑田ソロ作品としては初めて、TVドラマ(『静かなるドン』)のテーマ曲にも起用された。
③波乗りジョニー
《君を守ってやるよと 神に誓った夜なのに/弱気な性(さが)と裏腹なままに 身体疼いてる》“祭りのあと”に続く通算6作目のシングルだが、7年弱の歳月を経て2001年7月4日にリリース。原由子のピアノリフから賑々しく展開するナンバーだ。ここで引用したブリッジ部分の歌詞では、波に揺れるように不安定な恋心と、その先にある高揚感の予兆を巧みに汲み取っている。ライブの場では、オーディエンスが一斉に手拍子を打ち鳴らして壮観な光景を生み出す箇所でもある。この後に続くサビの、アップテンポに小気味よく弾ける歌詞も含め、全編が日本語で綴られた。MVは、ユーモラスなドラマ仕立てでCG合成も活かした作品に。
④東京
《東京は雨降り/何故 冷たく頬を濡らす/父よ母よ虚しい人生よ》華やかなポップチューンとなった前年の“波乗りジョニー”や“白い恋人達”から一転、重厚なピアノブギーで鳴らされる歌謡テイストのシングルであり、2002年6月26日にリリース。レトロなサスペンスドラマ風のMVもさることながら、桑田の音楽の情景喚起力が目一杯引き出されている。音楽を映像的な物語として膨らませることで、歌詞の方も強烈な悲哀が立ち上る情緒的な作風となった。『ROCK AND ROLL HERO』、そしてベスト盤『TOP OF THE POPS』へと向かう時期に、シングル3作連続でオリコンの週間シングルチャート1位を記録(初の1位は1993年の“真夜中のダンディー”)。
⑤ROCK AND ROLL HERO
《ロックン・ロールでUp Upと行こうじゃない Until we die./艶(いろ)っぽいショーを人生のために Ah…begin./ノッて行こうぜ Pop Pop “死のう”は辛い 夢見たい/青春の同志よ 沈黙は愛じゃない》2002年9月26日リリースのアルバム『ROCK AND ROLL HERO』のタイトルチューンであり、前月に出演したROCK IN JAPAN FESTIVAL 2002で先行披露された。MVでは、そのときのライブ映像が用いられている。サビ部分のご機嫌に弾けるフックは見てのとおりだが、そこへと至るまでには日本語・英語に言葉遊びを織り交ぜ、日米安保や核の傘、円高、ODAといった外交の諸問題が取り上げられている。複雑に入り組んだ国際関係の中、米国産のロックンロールを歌い、生きる複雑な立場を「憧れ」という切り口で綴ったタフなナンバーだ。なお、英詞ではKUWATA BAND作品でもお馴染みのトミー・スナイダー(ゴダイゴ)がサポートしている。