【知りたい】桑田佳祐が1年限定で活動した「KUWATA BAND」が約30年前に起こした「日本のロック」の革命とは?

【知りたい】桑田佳祐が1年限定で活動した「KUWATA BAND」が約30年前に起こした「日本のロック」の革命とは? - 『NIPPON NO ROCK BAND』『NIPPON NO ROCK BAND』
目下、ライブツアー「がらくた」で全国を興奮の坩堝へと叩き込んでいる桑田佳祐が、今ツアーを横浜アリーナでフィニッシュすると、その直後の2018年1月3日(水)(当初の予定より順延)に、ソロ活動30周年記念のミュージックビデオ集『MVP』をリリースする。ソロデビューシングル曲“悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)”の新たに制作されたMVから最新アルバム『がらくた』収録曲まで全30曲が収められるわけだが、さらに初回限定盤にはスタッフにより発掘されたKUWATA BANDのMV3曲(“BAN BAN BAN”、“スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)”、“MERRY X'MAS IN SUMMER”)も収録されるということで、これはファンを騒然とさせるニュースになった。

【知りたい】桑田佳祐が1年限定で活動した「KUWATA BAND」が約30年前に起こした「日本のロック」の革命とは? - 1月3日(水)発売のベストミュージックビデオ集『MVP』に収録の“BAN BAN BAN”より1月3日(水)発売のベストミュージックビデオ集『MVP』に収録の“BAN BAN BAN”より

KUWATA BANDの楽曲はソロ名義のライブでも披露されることがあるものの、そもそも彼らはどんなふうに活動していたのだろう。1986年から1987年にかけて、つまりサザンオールスターズの活動休止期(原由子の産休に伴うもの)から桑田ソロ始動までの1年間に限定的に活動し、シングル4作と、スタジオアルバム、ライブアルバム、ライブビデオをそれぞれ1作ずつリリースしている。メンバーは桑田佳祐(Vo・G)と松田弘(Dr)のサザン組に加え、河内淳一(G)、琢磨仁(B)、小島良喜(Key)、そしてバンマス・今野多久郎(Percussion)という顔ぶれであった。

“BAN BAN BAN”や“MERRY X'MAS IN SUMMER”が資生堂のCMに起用され、“スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)”がオリコンチャートの1位を記録するなどポピュラーなフィールドで活躍する一面を持ちながらも、意欲的なアレンジを施した洋・邦ロックのカバーを手がけ、またアルバム『NIPPON NO ROCK BAND』では全曲が英語詞で歌われている(作詞を担当したのは後にサザンや桑田ソロ作でも活躍するゴダイゴのドラマー=トミー・スナイダー)など、思い切った自由度の高さが際立つ活動スタイルを持っていた。

【知りたい】桑田佳祐が1年限定で活動した「KUWATA BAND」が約30年前に起こした「日本のロック」の革命とは? - 1月3日(水)発売のベストミュージックビデオ集『MVP』に収録の“スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)”より1月3日(水)発売のベストミュージックビデオ集『MVP』に収録の“スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)”より

当時小学生だった僕はまだロックにのめりこむこともなく、『NIPPON NO ROCK BAND』に触れるのはこの2年後ぐらいだったと思う(サザン活動休止中にサザン/桑田関連の作品を聴き始める、というややこしいことをしていた)のだが、サザン『KAMAKURA』と同じくらい、『NIPPON NO ROCK BAND』には衝撃を受けた。なお、このアルバムにシングル曲は収録されていない。それまでにも英語のフレーズを巧みに織り交ぜて歌っていた桑田が、完全に英語の歌に振り切れており、中学生の耳には「洋楽じゃん」としか思えなかったからだ。いわゆる第2次バンドブーム直撃世代の僕にとって、日本語のロックはすでに当たり前のものとしてそこにあった。

世間一般にとってはロックがまだ輸入品であり借り物文化だった頃、海外のオーセンティックなロックに対するコンプレックスは歴然としてあり、桑田はその温度差に対する不満を抱いていたのだと思う。何しろ、アルバムタイトルは『NIPPON NO ROCK BAND』で「日本のロックバンド」だが、英語表記として読んだら「日本にロックバンドはいない」という意味になってしまう。不満の大きさは大変なものだし、同じように温度差に不満を抱いていた日本のロックアーティストは数多くいたはずだ。

このときの衝撃を覚えているからこそ、最高峰の日本のロック/ポップソングを歌う今日の桑田に触れて、なおさら大きな感慨を抱くのだろう。僕は洋楽ロックも大好きだが、桑田の『がらくた』やサザンの『葡萄』を聴いて、心底幸福なロック体験をしている。洋楽ロックに対してコンプレックスを抱くことなど微塵もない。むしろ、これが理解できないのだとしたら、日本語圏外のリスナーは惜しいなあ、勿体ないなあ、と大きなお世話なことを思っている。それは、桑田やサザンが試行錯誤を繰り返して、そう思わせてくれるだけの作品を作り上げたからだ。

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いつしか日本のロック/ポップミュージックのど真ん中に君臨するようになった桑田佳祐だが、彼は一貫してオルタナティブな思想を抱き、走り続けてきたアーティストだった。わずか1年の間に活動したKUWATA BANDも、決して端境期の繋ぎなどではない。大きな野心をもって、大胆に日本のシーンと世界のシーンをまとめて挑発しようとしたプロジェクトであり、今日の桑田佳祐を支える大切な基盤なのである。(小池宏和)
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