①東京
2019年12月にオフィシャルYouTubeチャンネルやTwitterアカウントを開設し、1st EP『大衆音楽』を発表したPEOPLE 1。“東京”は『大衆音楽』の収録曲で、後にMVも公開された。これまでの全楽曲で作詞・作曲を担ってきたのはDeuだが、“東京”ではうっすらとハスキーがかった美声を誇るItoがリードボーカルを務めている。キラキラとしたシンセフレーズやギターのリフレインとともに走る爽快なビートポップだが、劣等感にまみれた生活と世間の喧騒が交差し、グッドメロディからはみ出す字余りのエモーションを迸らせる歌は、バラバラな背景や心模様を抱いたままの人々が行き交い出逢う街=東京を鮮やかに活写している。それは、我々が生きる社会そのものと言い換えることができるかもしれない。②常夜燈
2020年7月に配信/MVが公開され、2nd EP『GANG AGE』にも収録されたナンバー。ポップで可愛らしいダンスのアニメーション(coalowlによる制作)を用いたMVは、ダンス動画の数々を生み出すことになった。コンテンポラリーなジャズ/ファンクのグルーヴ感が心地好いポップソングであり、Itoはハーモニーの中で《この世界には 未来がキラキラとみえる人もいるというの/それならば 食えぬものなど置いていかなくちゃ/例えばこんな胸の常夜燈も》と歌う。他者や社会を警戒し、胸の中のか細い光だけを頼りにすることもあるけれど、それだけで生きることは難しい。少しずつだが確かに変化してゆく心境を、スローモーションのように映し出した1曲だ。③113号室
2020年12月にリリースされ、3rd EP『Something Sweet, Something Excellent』にも収録されることになった“113号室”は、スモーキーなロック性をなびかせるDeuの歌声が印象深いナンバーだ。人力ヒップホップのトラックに乗せて、113号室を舞台にした生活感豊かなヴァースが伝うラップソングとなっている。ソングライター/ミュージシャンとしての苦悩や苛立ちが織り込まれていることからも、赤裸々な独白としてDeuをより身近に感じる1曲になった。楽曲の後半で次第に悲痛な節回しとなってゆく歌声が《けどなんだか世界でひとりぼっちみたいだ/こんなこと考えているのは/歌っているのは》というフレーズのあとに渾身の叫びと化すさまは強烈。あくまでも音楽なのに、PEOPLE 1というミステリアスなバンドの素顔を垣間見るような瞬間である。④怪獣
レトロな特撮ヒーローもののようなMVが公開されたストレンジポップ“怪獣”は、アルバム『PEOPLE』の序盤でも重要なインパクトをもたらす楽曲として配置された。同アルバムのアートワークには暴れ回る怪獣のイラストが描かれているので、今日のPEOPLE 1にとって「怪獣」は重要なテーマなのだろう。奇天烈なフレーズが散りばめられたコミカルな曲調の中、Deuは《さあさあ怪獣にならなくちゃ 等身大じゃ殺されちゃう/でもでも怪獣にならなくちゃ 誰よりも優しいやつ》と歌い出している。人々の注目を集めにわかに巨大な存在感を振り撒くことになったPEOPLE 1の、「中の人」としての恐怖心や混乱が滲み出た楽曲だ。しかし、怪物化した状況とまっすぐに向き合いながら、愉快で愛嬌豊かな音楽へと変換してみせる手捌きはお見事。⑤魔法の歌
アルバム『PEOPLE』リリースと同日に公開された“魔法の歌”のMVは、それから2週間ほどが経過した本稿執筆時点で140万回以上の再生回数を記録。レタリングの歌詞と、ひた歩き、駆け、そして踊り出す少女のアニメーション(“常夜燈”と同じくcoalowl制作)が交差する作風は、途方もないエモーションの高まりと開放感を描き出している。シンクロする楽曲と映像の相乗効果が圧巻だ。Itoは凛とした歌声で《見くびるな 愛おしき日々を/全部裏切って捨てなくちゃ生きることもままならないのだ》と、強い覚悟を迸らせる。他者との距離感を慎重に推し量りながらも、孤独なままではいられないという思いが、PEOPLE 1という奥ゆかしいバンドにこれほどのスタンダードポップを生み出させたのではないだろうか。“常夜燈”の続編とも呼ぶべき、「自我」と「他者」との狭間でもがくすべての人のための歌だ。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号にPEOPLE 1が登場!
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