YouTubeへの動画投稿をきっかけに注目を集め、現在2021年注目の才能としてSNSや各種バイラルチャートを賑わせているシンガーソングライター、にしな。気になっている人も多いだろう。その魅力はどこまでも等身大でリアルな歌詞の内容と、切なさをそのまま形にしたような歌声、そして聴き方によっては洋楽的だったり、あるいはロック的だったり、J-POP的だったりする、本当の意味でジャンルを超えたソングライティングの感性である。今こそ注目しておきたいこの新世代アーティスト、まず最初に聴いてほしい5曲をピックアップした。(小川智宏)
①ヘビースモーク
今から3年前の2018年にYouTubeに動画が投稿された“ヘビースモーク”。動画の再生数は現在までに110万回を超え、まさに彼女の名刺代わりの1曲となっている。《あなた》の吸うタバコの煙に自分を重ね、切ない激情を歌うこの曲。《ヘビースモーク/口寂しいならば/その口に私が/ちゅってして拘束する/ヘビースモーク/それか深く吸い込んで/あなた以上に/体を蝕め》というサビのフレーズには、単に「あなたのすぐそばにいたい」みたいな軽い意味を超えて、とてもディープな愛の姿が何重にも重ね合わされている。徐々に熱を帯びてくるような歌、そして、エモーショナルなのにどこか乾いているような声。にしなのいちばんあられもない姿が、実はこの曲にあると思う。
②ランデブー
例えば“ヘビースモーク”や“ワンルーム”でにしなを知った人が、次にこの“ランデブー”を聴いたら相当びっくりするのではないか。アコースティックギターで弾き語っていた彼女が歌っているのは、メロウなファンクビートと生のグルーヴが心地好いR&Bチューンだからだ。でもそういうガワの話は実はどうでもよくて(どうでもよくはないが)、重要なのはこのサウンドプロダクションとリズムワークによって、にしなの声と歌のもつ叙情性と湿度みたいなものが思いっきり引き出されていることだ。この曲の落ちサビ前の彼女の歌の揺れるような動きがとてもエモい。
③真白
昨年11月に配信された“真白”は力強いビートとギターのカッティング、そしてピアノの音色がドラマティックに広がるロックナンバー。すごく直接的で女性的な内容の歌詞なのだが、このアレンジとにしなの声によってそれが美しく、ある種の強靭さをもって描き出されていく。彼女の声質自体はそれほど太さがあるとかアタック感が強いとか、そういうものではないと思うのだが、不思議と凛とした強さを感じさせる。その強さがふとした瞬間にひび割れたり、崩れたりして、その向こうから実はとても弱くて孤独な本質が顔を覗かせる、そこに彼女の歌のエモーションの源泉があるような気がする。
④ケダモノのフレンズ
2021年第1弾として配信されたこの曲。90年代的なレイドバックしたトラックと、おとぎ話のような「ケダモノ」たちのダンスパーティ。絵本の名作『かいじゅうたちのいるところ』を思い出すが、あの作品がそうであるように、賑やかなケダモノたちは孤独と切なさを抱えている。そしてその「ケダモノ」とは、いうまでもなくにしなであり僕らだ。《ゆらりゆらり揺れるケダモノのフレンズ/踊ろうよ今夜は はぐれた世界の隅/るらりるらり歌う醜いこんな声を/優しいあの子まで》というサビの歌詞に、にしなは何を重ねているのだろう?
⑤ダーリン
2月17日に配信開始されたばかりの、にしなの最新曲。“ランデブー”から始まった連続配信リリースの中で様々な音楽性にトライし、いろいろな顔を見せてきた彼女だが、この曲ではとてもシンプルで原点回帰的なギターの弾き語りを聞かせている。この曲には切なさと同じくらい優しさが込められていて、その手触りは彼女のほかの曲とは明らかに違う。恋が終わっていく悲しさと、それでも「ダーリン」を想う愛情と。それをすごく近い距離でにしなは歌い届けてくる。音楽性がどうのではなく、彼女が本質的に「弾き語り」の人であることを、この曲は改めて証明していると思う。