①檸檬の日々
出口の見えない現実に、閉塞感のある日常に、垂直にぶっ刺さり、一気に視界を広げるような焦燥感溢れる約2分30秒のギターロックサウンド。TikTokなどを通してその名が知れ渡り始めた2021年3月にリリースされた初のデジタルEP『檸檬の日々』の表題曲であり、のちに1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』(2021年12月)にも収録されたこの1曲からは、WurtSという表現者の根幹にある揺れ動く心の在りようを、絶望と希望を、強く感じることができる。《僕の目指す場所、遠い未来へ/世間はいっそうやけに冷たくて》――疾走するサウンドに乗せて入り混じる、理想と不安。そこには、WurtSがWurtSとして走り出す、その前夜の記憶も入り込んでいるのではないか。曲のタイトルに関して、「檸檬」と漢字表記されれば、梶井基次郎の小説『檸檬』を思い浮かべた人もいるだろう。この曲が同小説をモチーフにしているかどうかは定かではないが、ミュージックビデオのラストシーンなどに共振を感じることはできる。②Talking Box
何故、こんなにも快楽的で踊れるのに、こんなにも繊細で儚いのか。初期WurtSといえば前述した“檸檬の日々”や後述する“分かってないよ”といったギターロックサウンド系の印象が強い人も多いだろうが、WurtS自身はこの“Talking Box”のようなエレクトロニックなダンスミュージック系の楽曲にこそ、EDMなどに影響を受けてきた自らの楽曲制作の根本があると語っている。確かに、この“Talking Box”から伝わってくるベッドルームでひとりの青年が生み落としたようなメランコリックな質感に触れれば、これこそがWurtSの原点なのだと実感できる。《Dance with Me/Dance with You》――そんなふうに繰り返し歌いながら、高揚感と孤独感を同時に運んでくるメロディアスなダンスサウンド。EP『檸檬の日々』に収録された1曲であり、のちにラップパートを加えた“Talking Box (Dirty Pop Remix)”もリリースされた。③分かってないよ
獰猛に突き進む3分半。どこかぶっきらぼうな歌声が紡ぐ心の形は、《分かってないよ》から《分かってないの?》へ、そして《分からないよ》から《分かっていたいよ》へと、その姿を変化させていく。2021年1月にTikTokに投稿した動画が広く拡散され、一躍、初期WurtSの代表曲となった1曲であり、のちにデジタルEP『MAGICAL SOUP』(2021年6月)と、アルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』にも収録された。TikTokで起こしたバズ、2画面でひと組のカップルの姿を描いたミュージックビデオ、WurtS自身が「リバイバルをテーマにしていた」と語った1990年代オルタナティブロック的なサウンド、さらに2022年の暮れには「Sped Up(スピードアップ)」バージョンもリリースされるなど、何かとトピックの多い楽曲だが、とにもかくにも「1回聴けば食らう」、そんな楽曲全体に滾る本能的ともいえるエネルギーが、この楽曲の何よりの魅力だろう。流動し、惑い、彷徨いながら、確かな変化を遂げていく人間の姿を描いた歌詞にWurtSの本質を見る。④リトルダンサー feat. Ito (PEOPLE 1)
2021年9月にデジタルリリースされたEP『Radio Sausage』に収録された楽曲であり、その後も親交を深めていくバンド・PEOPLE 1のItoをフィーチャリングに迎えたダンサブルな1曲。TOYOTA「カローラシリーズ」のCMソングに起用されるなど、ネットを起点に認知を広げていたWurtSの活動がさらに広大な領域へと及んでいく転機の1曲ともいえる。ミュージックビデオは歌詞と連動した謎解き形式のドラマ仕立てになっているなど、この時期のWurtSは、彼の中から溢れ出るアイデアや創造性が、よりダイナミックに作品へと結実し始めていることを感じさせた。ちなみに2021年12月、WurtSは東京・Spotify O-EASTにて開催されたPEOPLE 1のライブにシークレットゲストとして出演し、共に“リトルダンサー”と“分かってないよ”を披露した。このステージが、WurtSにとって初の有観客ライブでのパフォーマンスとなった。⑤ブルーベリーハニー
ざらついた生々しい手触りと滑らかなグルーヴ感が絶妙にマッチしたサウンド。歌われる甘くとろけるような愛の言葉の中に、WurtSは、彼があなたに伝えようとし続けているメッセージを、さりげなく、でもダイレクトに、刻んでいる。《新世界/あなたが全てを/手に入れたって良いんだよ?》。1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』収録曲であり、その先行シングルとして配信リリースもされた1曲。時にシニカルな表情を浮かべ、時に奇抜な仕草で見る者を煙に巻くWurtSだが、彼は時に、こんなにも美しく純真な愛の歌を綴ってみせる。この曲でWurtSは、極めて鮮やかな手さばきで、恋の高揚と恍惚を、個の命の祝福として響かせている。あなたとなら、どこにだって行けると歌っている。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号にWurtSが登場!
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