【知りたい】Official髭男dism、人々に求められる楽曲を次々生み出す藤原聡の音楽への愛と探究心に溢れたパーソナリティ

【知りたい】Official髭男dism、人々に求められる楽曲を次々生み出す藤原聡の音楽への愛と探究心に溢れたパーソナリティ
最新アルバムのリリースを10月に控え、リスナーからはさらなる期待が高まっているOfficial髭男dism。グルーヴィーでキャッチーなポップミュージックは、メンバー全員の演奏力の高さとアンサンブルの心地好さがあってこそだ。そして、フロントマンにして楽曲のコンポーザーである藤原聡(Vo・Pf)の書く楽曲に感じる人間的な奥行きと、有機的な起伏と抑揚を持つ美しい歌声、グッドメロディは、予想を上回る勢いで日本中に拡散していった。この藤原聡というミュージシャンが書く楽曲は、なぜこれほどまでに人の心を掴むのだろうか。

藤原は2016年に上京するまで、地元、島根県で会社員として一般企業に勤める傍らで音楽活動を続けていた。音楽の情熱は変わらず持ち続けている一方で、それを仕事にしていけるとまでは思っていなかったようだ。けれど、結果的には一般企業で営業マンとしての経験を経たことが、彼の音楽への向き合い方に良い意味で影響を及ぼしたのだと思う。音楽業界というある種特異な世界だけでなく、むしろリスナーの多くが日常として見ている景色や、その生活の中で抱く感情を、自身の経験として蓄積したことや、決して一本道でここまでたどり着いたわけではなく、様々な逡巡があってこその現在地であることが、彼の描く歌詞世界に普遍性と奥行きをもたらしたひとつの要因であると思えるからだ。

そして、藤原が様々なインタビューで答えているように、営業マンとして「商品を売る」、「売るための交渉をする」という経験を得たことによって、現在の「楽曲をリリースする」ことや「プロモートする」ことの重要性を肌感覚で理解していることもとても大きいと思う。音楽稼業はとかく一般的なメーカーやサービス業とは一線を画すと捉えられがちだが、「モノを売る」という点で一致するところはたくさんある。つまりは藤原自身が「ここで何が求められているのか」という現実的なビジョンを独善的な思考だけでなく、ごく俯瞰的に描くことができているという点が、ひとつの強みになっていると思うのだ。

例えば現時点での最新楽曲である“宿命”。これは「2019 ABC 夏の高校野球応援ソング/『熱闘甲子園』テーマソング」として起用されたものである。高校野球というリアルなドキュメントのバックで象徴的に流れる曲を書くとして、実はその「塩梅」は非常に難しいものだと想像する。このバラード曲のメロディは、人々の心をぐっと掴んで鼓舞するものでありながら、決して音やビートを詰め込んで視聴者の気を引くようなものではない。ヒゲダンが表現する「ドラマチック」と、現実に向き合う球児たちのリアルな「ドラマ」が、正しい距離を保ちながら寄り添っている曲だと思う。このバランス感覚こそがとても藤原らしい。ここで求められていたのは、余計な違和感でも過剰な盛り上げでもなく、夏の永遠とも言える一瞬のドラマを視聴者の心に刻むために静かに、しかししっかりと響く歌なのだ。それをOfficial髭男dismが担う意味を藤原は理解した上で、この楽曲は制作されているはずだ。コンポーザーとしての藤原に感じるカリスマ性とは、こうした「ここで切るべきカード」を的確なタイミングで切れるところにある。


その前にリリースされた楽曲“Pretender”が生まれた背景にもまた、藤原ならではの音楽への向き合い方が見て取れる。“Pretender”は、映画『コンフィデンスマンJP』の主題歌として書き下ろされたものだが、ここでは、あえて自分たちのルーツにはほとんどないUKロックの翳りのあるサウンドをインプットして、作品にフィードバックさせるという荒業に挑んだ。自分たちの中にまだないものを貪欲に取り込んでいくその姿勢は、自信という裏付けがあってこそで、結果完成した楽曲は、UKサウンド的な翳りが人間の感情の揺らぎをより効果的に表現する、むしろ、とてもヒゲダンらしいものとなったのが興味深い。この実験的なプロダクトの姿勢と楽曲の完成度の両立が、映画の主題歌という、これまた「求められる楽曲」の中でできていることが、現在のOfficial髭男dismの実力をよく表していると思う。


サウンドやリズム、ビートの組み立ては非常に計算されていると感じる一方で、小難しさを感じさせない演奏スタイル、ライブパフォーマンスもまたヒゲダンの魅力である。いやむしろ、だからこそここまで多くのリスナーを惹きつけているのだとも思う。初めて彼らのライブを観る人も、理屈など関係なくそのグルーヴに体を預けてしまうし、ライブ中のMCも飾り立てた言葉ではなく、その場にいるすべての人をあたたかく巻き込んでいくような、そんな親密さがある。
音源やライブで、藤原聡という人のこうした多面性を知るにつけ、まだまだバンドの果てない可能性を感じるのである。(杉浦美恵)
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