【知りたい】吉澤嘉代子、「SSW界の魔女」である彼女の才能の奥深さについて

【知りたい】吉澤嘉代子、「SSW界の魔女」である彼女の才能の奥深さについて
シンガーソングライター界の魔女・吉澤嘉代子。彼女は2014年にミニアルバム『変身少女』でメジャーデビューして以来、まさにアルバムを出すごとに「変身」するかのようにかわるがわる様々な魅力を振りまき、女性シンガーソングライターの中でも独特な雰囲気を漂わせてきた。


少女時代を描いた1stアルバム『箒星図鑑』、日常を切り取った2ndアルバム『東京絶景』を経て、昨年リリースされた3rdアルバム『屋根裏獣』は、彼女の「妄想世界の物語」に振り切った作品だった。これら「初期の3部作」であるアルバムのほか、キラキラしたサウンドスケープで彩られたラブソング集『秘密公園』、彼女自身がファンであるサンボマスターや、岡崎体育らとのコラボ楽曲が収められた『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』といったミニアルバムも発表されており、シングルではドラマ『架空OL日記』の主題歌に書き下ろした“月曜日戦争”、そして昨年10月には2ndシングル『残ってる』がリリースされた。

「シンガーソングライター界の魔女」と言われる所以でもある、聴く人を異世界に引き込むような物語性の強い楽曲や、実際に幼少期に「魔女修行」をしていたという奇天烈なエピソードはあくまで吉澤嘉代子というアーティストの入り口であって、そこからさらに奥へ入っていくと彼女の本質に出会うことができる。そしてこの本質こそ、吉澤の華麗な変身術の種だと私は思うのだ。

先日、3月18日に放送された『SONGS』はそんな彼女の内面部分に迫る内容で、吉澤が自分の部屋でインタビューに応じる様子が届けられた。人とコミュニケーションをとるのが苦手で、長い間不登校になり、学校に行けない間はほとんどの時間をこの部屋で過ごしていたという。「私にとっては物語が1本のわらだった」、「読みかけの本があるうちは守られている気がした」と語っていたことからもわかるように、彼女にとって物語の世界は1つの大切な「逃げ場所」だった。16歳から作詞作曲をするようになり、初めて曲が出来上がった瞬間は震えが止まらなかったそうだ。「これを通して私は世の中とつながれるのかもしれない」――そして吉澤はステージに立つようになり、自分が少女時代にのめり込んだ「物語の世界」を楽曲に反映させていった。



こういったルーツがあるために吉澤の楽曲は物語性が強い。彼女自身、楽曲を作る際は主人公のプロフィールを細かく設定しており、例えば“地獄タクシー”では「愛するあまり亭主の首を狩って遠い土地へ逃げようとする夫人」、“残ってる”では「平日の早朝に朝帰りする女子大生」といったように小説チックな人物像がくっきりと浮かび上がってくる。このように創作物語調の楽曲以外にも、吉澤の実体験が「ひとりぼっちの少女」の物語として描かれた作品もある。例えば1stアルバム『箒星図鑑』収録の“ストッキング”は、彼女の「魔女修行」時代の思いが綴られた楽曲であり、MVには屋上にある秘密基地のような場所で、魔女になるための修行に勤しむ少女の姿が映し出されている。


また、3rdアルバム『屋根裏獣』のラストナンバー“一角獣”も、物語の世界に陶酔していた頃の彼女自身の楽曲である。《誰かに会いたいのにそれが誰だかわかんないよ》、《ゆめの中 ひとりぼっちのわたしは/ずっとあなたに会いたい》という歌詞から伝わってくるのは、「一角獣」という伝説の生き物、つまり妄想世界に恋をしていても、それが現実に形として存在しないこと、実在させることが出来ないことへのもどかしさだ。しかし、彼女が現実からの避難場所としていた物語の世界は今、シンガーソングライター・吉澤嘉代子の楽曲やパフォーマンスという確かな形になって現実の世界とつながっている。

吉澤は『SONGS』の最後で「かつての自分のような生きづらさを感じる人に届けたい。自分が人生を楽しむことで、逃げた先に扉があるということを肯定したい」と語っていた。「生きづらさ」から目をそらし読書に耽るひとりの少女は、今でもまだ吉澤嘉代子の中に生きている。それでも世界とつながろうと思い切って扉を開けたからこそ、彼女が歌い上げる物語の世界は色濃く、生命が宿っているような生々しさがある。(渡邉満理奈)
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