英語と日本語、光と影、高揚と深淵、躍動と静謐――その唯一無二のハスキーな歌声で、およそポップミュージックのみならず日常と人生のあらゆる両極を自らの表現世界に抱きしめ、日々劇的進化を続ける新鋭シンガーソングライター・
milet。数多くのタイアップ曲のみならず、
MAN WITH A MISSION“Reiwa feat. milet”への参加など、2019年3月のメジャーデビュー以降多角的に時代に求められているその魅力を、改めて以下の5曲を通して解析する。(高橋智樹)
①inside you
ONE OK ROCK・Toru(G)のプロデュースによる、メジャーデビュー作『inside you EP』表題曲。洋楽オルタナR&Bを彷彿とさせる透徹した音の質感の中で響く《Where you're going まだ明けない/夜は 愛想を尽かして》と英語〜日本語を自在に行き来するフレージング。歌謡曲の影響も湿度もほとんど感じさせることなく、聴く者の内面に渦巻く憂いと共振し鮮やかに解き放つ、独特の歌い回しとメロディ運びの浮力――miletの才気を瞬時に時代に焼き付けた1曲。
②Again and Again
同じく『inside you EP』の収録曲ながら“inside you”とは対照的に、ハイブリッドな音色が乱反射する目映い音像とともにファンタジックなまでの高揚感を歌い上げている。《深い底でただ朝を待っていた》という鈍色の描写から《誰にもわからない かわりなんていない/どこへでもいくんだ》という魂の絶景へとリスナーを導く歌のリアルは圧巻。同曲含め4曲中3曲がドラマタイアップという『inside you EP』の構成も、その非凡な存在感を物語っている。
③us
《好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな》――日本テレビ系ドラマ『偽装不倫』主題歌として鮮烈な印象を残した、3rd EP『us』の表題曲。ボーカル1本でも十分な訴求力と豊潤さを備えたmiletの歌声が、多重コーラスを駆使したアレンジメントによって極彩色に咲き乱れ、ポップな聖歌の如きスケール感を獲得するに至った重要曲。《I want you 想いを伝えたら/I want you 消えてしまうかな》と揺れ動く心を流れるように、しかし克明に活写する歌詞も秀逸。
④Drown
アニメ『ヴィンランド・サガ』第2期エンディングテーマとして書き下ろした、4th EP『Drown / You & I』表題曲。《Feeling like I'm living in your shadow/浅い傷に棲みついた sorrow》と大半が英語で歌われるこの曲で聴かせるmiletのしなやかで決然とした歌は、オルタナブルースの荒野を吹き抜ける風のようでもあり、終わりなき闘いに挑む者を包み込む福音のようでもある。それは同時に、今この時代を懸命に生きる者すべてへのエールでもある。
⑤Prover
感情のミクロな揺らぎを雄大な歌へと昇華させるmiletの歌声が、シンフォニックなサウンドスケープの中でひときわダイナミックに生命と運命を体現する――。アニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』2ndクールエンディングテーマとして提供された、5th EP『Prover / Tell me』表題曲。miletが綴る《明けない夜も歌が途切れないように》という言葉はそのまま、シンガーとして/アーティストとしての矜持の表明のように凛と胸に響く。