①口癖
2018年、Mr.ふぉるてがオリジナル1作目としてYouTubeにアップロードした楽曲。そのMVは公開直後から予想以上のスピードでシェアされ、瞬く間に要注目の存在として、バンドの名が知られるところとなった。当初はライブ会場限定CDとしてのリリースだったが、その後、2020年6月に配信シングル曲としてもリリースされた。性急なギターロックサウンドは衝動に満ちたシンプルなアンサンブルでありながら、キメとタメの効いた、絶妙な小気味よさに中毒性を感じる。そして、ストレートに恋心を綴った曲にも稲生司(Vo・G)の言葉選びには独特の感性が光り、その歌詞には共感性と同時に、安易な共感を拒むような不思議な奥行きがある。この初手からして、すでにMr.ふぉるての強みが詰まっている。
②偽愛
2019年11月リリースの1stミニアルバム『ジャーニー』の1曲目に収録されている楽曲。疾走感のあるギターロックの恋愛曲で、歌詞の内容も“口癖”と地続きにあるものだと感じられるが、ここで際立つのは歌のメロディ、そしてそれを表現する稲生のボーカル力。非常に切実な歌声だが、稲生のどこか乾いた感じの声質も相まって、寂しさと諦念を同時に表現する感じがとても魅力的だ。そしてこの曲もまた4ピースのソリッドなアンサンブルだが、バッキングとリードのギターの重なり具合などは、聴くほどに耳に心地好く、海外のギターポップの影響も強く感じられる。“偽愛”のみならず、この1stミニアルバムはMr.ふぉるての原点として、バンドアンサンブル、エモーショナルなメロディ等、非常に聴き応えのある、そしてエバーグリーンな輝きを放つ佳曲揃いである。
③幸せでいてくれよ
2021年3月リリースの2ndミニアルバム『sweet life』収録曲として先行配信され、USENインディーズランキングで1位にランクイン。Mr.ふぉるての新たな境地を見せた楽曲である。ドラムマーチの印象的なリズムにクリーントーンのギターサウンドが重なり、空間系のエフェクトを効かせたシンセサウンド、そしてストリングスが融合していく流れが非常に美しい。穏やかなスローナンバーだが、徐々に感情が溢れていくような稲生の歌声に引き込まれる。《世界がちょっぴり涙ぐんでも/愛を殺さず/息をさせることを忘れずに》という歌詞は、とても本質的で大事なメッセージとしてここに刻まれているが、「息をする」ではなく「息をさせる」という表現に、稲生の眼差しのあたたかさを感じてしまう。
これ以降、Mr.ふぉるての音楽はどんどん自由に音楽性を広げていくことになる。
④シリウス
2021年7月リリースの1st EP『Carpe diem』に収録。前作『sweet life』の頃から、阿坂亮平(G)がサウンドアレンジを主導する形で楽曲制作は進んでいくようになり、この“シリウス”では、そのアレンジがさらに新たな境地へと突入したことを感じさせる。4ピースのバンドサウンドに囚われることなく、キーボードとブラスサウンドをフィーチャーしたイントロダクションは、バンドとして、さらに自由に音楽に向き合うことを表明するかのように高らかに響いた。そのサウンドのポップネスと、《君も誰かの一番星》とリフレインする歌詞で、稲生はこれまでよりも、さらに普遍的な愛を歌う。Mr.ふぉるてがポップもロックも飛び越えて、広い世界に向けて音楽を鳴らし始めた新たな一歩と言える、マイルストーン的な楽曲。
⑤夢なずむ
2021年12月にデジタルシングル曲“エンジェルラダー”でメジャーデビューを果たしたMr.ふぉるては、翌2022年3月、1stフルアルバム『Love This Moment』をリリース。そのアルバムに収録された一曲がこの“夢なずむ”。“エンジェルラダー”もそうだが、バンド以外の音も積極的に取り入れ、バンドとして圧倒的なスケール感を手に入れたMr.ふぉるてに対して、もはや単なる「ギターロックバンド」という形容はふさわしくない。しかし一方で、4ピースのバンドアンサンブルにも変わらず重きを置いているはずだ。それがよくわかるのがこの楽曲である。
まばゆい青春を感じさせるような疾走感、印象的なギターフレーズ、心が先走るような歌メロディは、結成当時のMr.ふぉるてを思い起こさせるが、そこで鳴るバンドサウンド、そのアレンジやプレイには、とてもポジティブなエネルギーが宿る。《もうすぐ もうすぐだよ/報われなかった夢/叶うまであと数cm》という歌詞の純粋さもまた、このバンドのまぶしい魅力のひとつだ。
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