【知りたい】wowakaの6年ぶりボカロ曲“アンノウン・マザーグース”までを貫く世界観とは?

ヒトリエのwowakaが先日、約6年ぶりとなるボカロ曲“アンノウン・マザーグース”を公開した。同曲は本日発売された初音ミク10周年を記念したコンピレーションアルバム『HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album「Re:Start」』に収録されている。


wowakaは現在、ヒトリエのボーカル&ギターとして主に活動しているが、2009年に初音ミクによるオリジナル曲“グレーゾーンにて。”を初めてニコニコ動画に投稿。2011年11月までボーカロイドによる楽曲を投稿し、中でも500万再生、700万再生を超える曲があるなど、伝説のボカロPとしてニコニコ動画で活躍してきた。

wowakaのボカロ曲の特徴は、ボーカロイドにしか歌えないような早口のメロディーと、人間では出せないような高音を駆使しているところにある。また、ギターのリフやピアノ、ベースラインなど、スタッカートと速弾き・連打・長音の組み合わせが、機械的なイメージを生み出している。これがいわゆる、(米津玄師もTwitterで言っていたが)「ボーカロイドっぽい」という概念になっていると思う。しかしこれはボカロ曲だけではなく、ヒトリエの曲にも一貫している。

2009年5月11日に初投稿された“グレーゾーンにて。”を筆頭に、wowakaのボカロ曲の映像は、全てグレーの幾何学的な模様だったり図形だったりの1枚イラストのみとなっていて、これもまた無機的なイメージを彷彿とさせる。歌詞は女の子的表現が多く、そこには柔和な肉体性を持ったイメージがあるのに、それを初音ミクの感情の無いような歌声が歌うから、アンニュイ感が漂うのと同時にギャップが生まれる。例えば、“裏表ラバーズ”は、とても早口な歌詞で語り口調気味になっているが、《もうラブラブになっちゃってー》とか、言葉だけ見ると人間味がある歌詞なのに、実際に聴くとミクが無表情で淡々と歌っているように聴こえるさまが、なんとも絶妙である。さらに《脅迫的に縛っちゃってー》なんてちょっと狂気じみた歌詞も、表情一つ変えずに無機的に歌うのである。これがボーカロイドの良いところで、人間味がある歌詞やどんな感情が含まれた歌詞だって、同じトーンで表現できる。それを特筆して実践しているのがwowakaの曲だと思う。wowakaの初音ミクの歌声は――ボカロPによってボーカロイドの声に違いがあり、抑揚をつけて人間味を持たせるボカロPもいるが――特に一定調で淡々としていて、滑舌もクリアで、それが人間ではできない歌い方と、機械的・無機的な歌に仕上げている。


さらに、エレクトロニックな音楽に加え、2010年2月に投稿した“ローリンガール”からは、ギターサウンドなど、よりロック調が際立ってきている。また、初音ミクと巡音ルカによる“ワールズエンド・ダンスホール”は、歪んだギターが特徴的だ。そしてこの曲は740万再生を超えている。次の“アンハッピーリフレイン”ではドラムの音が目立つのも特徴的である。


ここまでが、ヒトリエとして活動する前のwowakaが投稿したボカロ曲たちで、全ての曲に言えることだが、非常に中毒性があるということだ。ループして何度も聴きたくなる、一度聴いたら耳から離れない、そんな中毒に陥ってしまう。感情の無いボーカロイドの歌声、しかし歌うのは人間的な言葉、音楽は速いビートで――エモさがないからこそ、良い意味で余計な感情がなくスッと入ってきて、そこでエモさを感じて、純粋に音楽としての良さが脳内に残るから、自然に頭の中で流れていたり、さらに聴きたくなる=中毒性が生まれるのだと思う。

そして、今回約6年ぶりに投稿されたボカロ曲“アンノウン・マザーグース”である。この曲はヒトリエのバンド編成でレコーディングされたとのことだが、そこには一貫してwowakaの曲の特徴が浮き彫りになっている。本人がTwitterで言っていたが、「完全に地続きでやってきたこと」がまさに表れている。wowakaはボカロPとしてもヒトリエのボーカル&ギターとしても同じ人間であり、同じ人間が作っている。それはヒトリエの曲でも表れているし、今回ブランクが空いた中でのボカロ曲を聴いても如実にわかることだ。さらにこの曲をよく聴くとわかるのだが(同じくTwitterでも言っているが)、ミクの裏にwowakaの声が重なっている。言うまでもなく、ヒトリエの曲でもあり、ボカロPとしての曲でもあるのだ――だけでなく、これが「今のwowaka」の曲なのだ。今も昔も変わらず、ミクの無機質でクリアな歌声、ループして聴きたくなるようなメロディー、速いビート。wowakaはこの言い方に消極的だが、でもやはり「ボカロっぽい」のだ。


伝説のボカロPが初音ミク10周年の記念コンピアルバムのために書き下ろした曲は、6年前と変わらないどころか、ヒトリエという強固な存在を得て、さらに色褪せないことを証明し、wowakaというソングライターの新たな曲として刻まれ、初音ミクの新たな歴史に残る楽曲となったことは間違いない。公開から1週間で50万再生を突破していることがその証拠だ。昔から聴いてるユーザーも、最近知ったユーザーも虜にしてしまう曲が“アンノウン・マザーグース”であり、昔も今も、ボーカロイドもバンドも隔たりなく、wowakaという人間の曲がどれだけすごいものなのか、ミク10周年をきっかけに改めて考えさせられた。(中川志織)
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