①不革命前夜
革命前夜ではなく、あくまでも、「不」革命前夜。この楽曲タイトルからは、いつくかの意味を読み取ることができる。「明日もきっと革命は起こらないだろう」という醒めた現実認識。あるいは、「もはや前夜などではなく、今この瞬間に革命は起こっているのだ」という強い意志。いずれにせよ、この曲からは強烈な密室感と開放感が、そして深い無力感と無敵感が、同時に、濃密に、噴出している。この“不革命前夜”は、2020年8月にデジタルリリースされたシングル『JINRUI』のリード曲であり、1stフルアルバム『NEE』(2021年)にも収録。アニメーション作家・こむぎこ2000が手掛けた物語性のあるミュージックビデオの存在も相まって、発表されると一躍「初期NEEの代表曲」の座を射止めた。焦燥感溢れるサウンドに乗せて、まだ見ぬ明日へ向かい、少年少女は闇夜を疾走する。②第一次世界
ボカロPとして「村上蔵馬」の名義も持つ、フロントマンでありコンポーザーの、くぅ。そんな彼の生み出す、現実と幻想が重なるような内省的かつイマジネーション溢れる世界観。それがバンドミュージックの肉体的なダイナミズムを得ることで、類まれな爆発力が生み出される――そんなNEEの幸福なバンド構造を、この“第一次世界”のキャッチーかつ異形のファンクロックサウンドはダイレクトに伝えてくれる。1stフルアルバム『NEE』に収録されたこの曲は、アルバム内ではSE的な1曲目“全校朝会”に続く実質的なオープナーを務めることで、その後に続く豊潤な音楽世界の入り口を見事に果たした。歌詞は「権力」がテーマになっているというが、だからこそ、この曲は人の心にあり続ける寂しさや弱さ、それゆえの優しさを、浮き彫りにしているようにも思える。③月曜日の歌
2022年1月、フルアルバム『NEE』リリース後の最初の楽曲としてデジタルリリースされたこの“月曜日の歌”は、2ndフルアルバム『贅沢』(2023年)へと至るNEEの変化の始まりを印象付けた。この曲のリリースに際して、くぅが発表したコメントには「僕が幼少期の頃によく流れていたテレビ番組からインスピレーションを受けて作りました」と綴られていたが、彼自身のパーソナルな記憶や、そこに根付く感情を深く掘り下げながら生み出されたであろうこの曲には、その狂騒的なテンションの中に、彼が抱え続けてきた孤独と悪夢、そして「それでも生き抜いてきた」という実感が深く刻まれている。くぅが自らの内面を掘り下げれば掘り下げる程に、その音楽は、同じように月曜日の憂鬱を感じながら生きる、どこかの誰かの心の奥底にリンクする――そんな普遍性が、この曲にはある。④本日の正体
2022年9月、全国ツアー開催直前に配信リリースされ、その後、アルバム『贅沢』に収録された1曲。この時点でバンド随一のストレートさを持っていた楽曲であり、ハイスピードで駆け抜けるロックサウンドの中で、《誰よりも脆く弱く生きてたいのです》――そんな言葉が、まるで静かな決意のように響き渡る。自らの愚かしさも、生きづらさも、それに裏打ちされた願いも、祈りも、あらゆる感情が虚飾されることなく吐露されたような歌詞は、くぅという人間のリアルを、そして、この世界、この時代にNEEが何を照らし出そうとするのかを浮き彫りにしている。この曲は、《また会いましょう》という別離の言葉で締め括られる。このどうしようもない世界を、それでもサバイブしていくために交わした、自分自身との約束として。⑤生命謳歌
2023年4月にリリースされた2ndフルアルバム『贅沢』は、くぅが綴る詩情がより深い内面性へと潜ると同時に、サウンドメイクはより饒舌に、そして、逞しく進化した。それによって、NEEの世界観の根底にあり続けた弱さや繊細さが箱庭的な無邪気さの中で爆発するのではなく、この世界や社会に問いかける強靭な意志へと変化した、そんな覚醒の一作となった。この“生命謳歌”は、そんなアルバム『贅沢』のリード曲。NEEの認知を大きく広げることになった“不革命前夜”をさらにアップデートするように、サウンドは厚みを増し、断片的な言葉の羅列のような歌詞の中からは、《生命謳歌、歌います/贅沢に響かせてます/馬鹿になっても僕が歌うのは/貴方を守るため》という、くぅの音楽人生における覚悟のようにも読み取れる言葉が聴こえてくる。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』6月号にNEEが登場!
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