今まさに世界で話題を攫っているティモシー・シャラメ主演、アカデミー賞9部門ノミネートの映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。破天荒なあらすじを読んだだけでも期待は高まるばかりだが、音楽好きとして真っ先に反応してしまうのがそのサウンドトラックだ。殊に本作では、革新的な電子音楽で世界的評価を受けるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (以下OPN) ことダニエル・ロパティンが手掛けている。
そもそもOPNといえば昨年リリースの最新作『Tranquilizer』が会心の一作だった。ノイズ、アンビエント、ドローン、エレクトロニカ、ブレイクビーツなど多様な音像を再構築したサウンドスケープは万華鏡のように美しく、聴く人を遠い場所に連れて行ってくれる。
そんなOPNのミュージックビデオを本編前に上映する夢のような特別上映が開催されるというので、当日急いで新宿109シネマズプレミアムに向かった。
今回の特別上映では以下5つのミュージックビデオが上映された。
「Measuring Ruins」
「Lifeworld」
「Cherry Blue」
「Rodl Glide」
「D.I.S.」
座席に座りまもなく場内が暗転。巨大なスクリーンに1曲目の「Measuring Ruins」が映し出されると、驚きとともに感嘆の溜息が出た。普段ヘッドフォンで聴いているOPNとは別次元の音楽体験だ。幻想的なアンビエントサウンドの一音一音が、手に取るようにわかる。
それもそのはず、109シネマズプレミアムでは、プレミアムピュアサウンドシステム「SAION」を採用し全館の音響システムはかの坂本龍一氏が監修しているためだ。作品は瑞々しさや荒々しさを湛えたまま、音のポテンシャルが極限までに引き出されている。
次なる「Lifeworld」では90年代の断片的なイメージがパッチワークのように繋ぎ合わされ、幽玄なシーケンスが反復する。その映像体験はさながら走馬灯のようだ。OPNの作品を聴く時たびにどこか懐かしい気持ちになるのも、彼の手で再びコラージュされたイメージによって過去、現在、未来を自由に行き来できるからだろう。
その後も彼の思考の美学が宿った卓越したミュージックビデオを鑑賞し、すでに短編映画を5本見たような満足感。最高峰の音響設備でOPNの作品を観ることができただけでも貴重な経験だ。
そしていよいよ『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』本編が始まる。はっきり言って、物語は痛快そのもの。ティモシー演じる型破りなマーティ・マウザーが卓球の世界選手権出場をかけて、大騒動を巻き起こしていく。そしてまた、ダニエル・ロパティン手掛けるサウンドトラックが目まぐるしく展開するマーティの人生の悲喜こもごもを増幅させる。23曲から構成されるこのサウンドトラックには名匠ララージやワイズ・ブラッドなど豪華メンバーも参加。ネオクラシカルなオーケストラサウンドと郷愁を感じさせるシンセサウンドにツィターやパーカッション、神秘的な歌声が複合し、まるでもう一つの脚本かのような厚みで物語に作用している。
これほどまでに映像、音楽、物語、三方良しの満足感満載の映画体験は久しぶりだ。気になる方はぜひ劇場に足を運んでその目と耳で確かめてほしい。
また、OPNは4月に新作『Tranquilizer』を携えての来日公演を予定している。さらにスペシャルゲストにはララージも参加。新作、映画共に今一番ホットな状態のOPNを見ることができる貴重な来日公演は必見だ。(土屋聡子)
●Oneohtrix Point Never with Freeka Tet
special guest: Laraaji
大阪 2026.04.01 (水) Gorilla Hall
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