tricotの中嶋イッキュウ(Vo)、川谷絵音(G・Produce)、野性爆弾のくっきー!(B)、小籔千豊(Dr)、現代音楽家の新垣隆(Key)によるバンド、ジェニーハイ。彼らは先日、初のフルアルバム『ジェニーハイストーリー』をリリース。また、2月に東名阪Zeppツアーを開催することが先日発表され、バンドの活動はさらに本格化していきそうな予感だ。
この記事では、『ジェニーハイストーリー』収録曲を基にバンドの魅力を掘り下げる。まずは歌詞。ジェニーハイの歌詞は主に3タイプに分類できる。1つ目は女性目線の曲。川谷が所属する別のバンド・indigo la Endも女性目線の曲を多く歌うバンドだが、ジェニーハイの曲に登場する女性はもっと潔くざっくばらんで、言うなれば「開き直り力」が強い人。例えば、“シャミナミ”には教師に憧れていた生徒の失恋が描かれているが、終盤には《とんでもなく病んじゃった/と思ったら笑顔になった》とあり、生徒のケロッとした表情が浮かぶ。“ダイエッター典子”では「痩せなければならないのにタピオカがやめられない」という葛藤が歌われているが、主人公はやがて「タピオカを食べ過ぎたら逆に痩せることもありえるかもしれない」と半ば強引な発想をし、《タピオカ摂取できないよりは/できる幸せを掴みたい》と結論付けているのだ。2つ目は、メンバーの自己紹介ソング。“ジェニーハイラプソディー”や“愛しのジェニー”がそれにあたる。昨年発売のミニアルバム『ジェニーハイ』にも“ジェニーハイのテーマ”という自己紹介ソングが収録されており、他4人の個性が川谷のインスピレーションを刺激していることが窺える。実際、川谷はインタビューで「自己紹介の曲は何度作っても飽きない」と発言していた。3つ目は、女性目線でも自己紹介ソングでもない曲。“ヘチマラップ”など、特に重大な意味はなさそうだが妙に頭に残る曲が多い。このバンド特有のユーモアも許されるテンションにより、川谷は柔軟な発想で以って創作に向かうことができているのでは。
そしてサウンド面。気になるのは本職がお笑い芸人であるリズム隊の腕前だが、2人の演奏は申し分なし。小藪は「自分がどれくらい叩けるかを川谷に見せるため、“私以外私じゃないの”(ゲスの極み乙女。)を演奏した」というエピソードからも分かるように、なかなかのテクニックの持ち主。くっきー!は結成以降、指弾きを熱心に練習しているらしく、“シャミナミ”や“不便な可愛げ feat アイナ・ジ・エンド(BiSH)”における彼のスラップは各曲の聴きどころのひとつだ。そして、バンドの大きな特色となっているのがクラシック/現代音楽の素養がある新垣による流麗かつ大胆なピアノの旋律(“ダイエッター典子”の2番Aメロが特に凄まじい)。これだけ個性のある人たちが集まっているのにアンサンブルにどこか品があるのは、彼の存在によるところが大きいだろう。そこに、このバンドではメインボーカルを務めず、ギターに専念する川谷によるプログレッシブなメロが掛け合わさるため、上物はきわめて複雑。しかしボーカルのイッキュウは、変拍子を自在に操るバンド・tricotでずっと歌ってきた人物であるため、その上に難なく乗っかることができる。
ここで触れたいのが、『ジェニーハイストーリー』のラストに収録されているプロポーズソング“まるで幸せ”だ。ここまで王道のバラードだと、気恥ずかしさからか、技巧的な表現に逃げてしまうバンドマンも多いだろう。しかし結成から日が浅く、本職がミュージシャンではない人も含むこのバンドではそういう思考が働かない。そんな状況を逆手にとった名曲だ。
柔軟な在り方が許される軽快さと、不要なプライドに縛られず本気の勝負ができる純粋さ。一見相反するそれら2つの要素を兼ね備えているのがジェニーハイというバンドであり、今彼らはこのバンドならではの表現を掴みつつあるところだ。今後の活動にも注目していきたい。(蜂須賀ちなみ)
【知りたい】ジェニーハイはこんなにも音楽として最先端、その理由をあらゆる角度から解析
2019.12.11 12:30