Mr.ふぉるて、少年と青年の狭間で揺れるギターロックのむき出しの感情とビビッドな可能性

Mr.ふぉるて、少年と青年の狭間で揺れるギターロックのむき出しの感情とビビッドな可能性

文=沖さやこ

 スマホを高速スクロールしていても、英語+外語ひらがな表記というアンバランスさから目に留まるバンド名。公式Twitterのプロフィール欄に燦然と輝く「9年後でかいフェスの大トリを受け持つバンドです」の文字。全速力で走って息切れしながら涙ながらに叫ぶような切実な歌声。心の中から瞬間的に湧き上がった感情を文学的に昇華した歌詞。光を放つと同時に陰を感じさせる衝動的な音像。平均年齢19歳のギターロックバンド・Mr.ふぉるてが、事あるごとにこちらの記憶と心に爪痕を残してくる。

 同バンドは稲生司(Vo・G)、阿坂亮平(G)、福岡樹(B)、吉川波音(Dr)の4人で2017年3月東京にて結成。2018年1月、YouTubeにMVがアップされた“口癖”の、切なさを醸すコード進行を力いっぱいにかき鳴らすギターに耳を奪われたあと、想いを寄せている人が失恋に暮れている姿を目の前にして募る気持ちを《いっそのこと僕の優しさに触れさせてしまって/好きだ 愛してるを/口癖にさせてしまいたいんだ》といった言葉で表現するセンスに感心した。加えてその言葉たちがメロディに小気味よいリズムの緩急をつけるため、メロディも歌詞もブライトに響く。同曲が10代を中心とした若いリスナーによってSNSへシェアされていったのは、バンドの持つ10代ならではの瑞々しい青さと確かなソングライティング力が、より若者特有の心の機微を音楽へ落とし込んだからと言っていいだろう。

 彼らは2019年に入り、3月に配信限定シングル『反撃』と店舗限定シングル『あの頃のラヴソングは捨てて』を同時リリースし、計5曲の新曲を発表。7月にShibuya Milkywayで開催された初ワンマンは定員を大いに上回るエントリーの末、ソールドアウトした。そんな追い風が吹く中、満を持して11月27日に全国デビュー。全曲新曲で揃えられた1stミニアルバム『ジャーニー』は、6曲それぞれに異なる感情と情景が刻まれた、幅広い可能性を秘めた作品だ。

 幕開けは胸を締め付けるギターフレーズと軽快なリズム隊のコントラストが眩しい“偽愛”。意味深なタイトルどおり、歌詞にも《あなたにとって僕はさ/要らなくなったんでしょ?》や《あれも これも どれも 全部/嘘だったんでしょ?》など憎悪にも近い強い愛情と《またあの日のこと思い出してるんだ》と未練が吐き出されている。切実な言葉の羅列の中に突如“口癖”の歌詞の引用が飛び込んでくるというユニークなギミックもいいアクセントだ。続編となる楽曲を作るソングライターは少なくないが、稲生の歌詞は「もしかしたらこの曲に出てくるこれは、あの曲で歌っていたあのこと?」と想像させるヒントの塩梅が絶妙。小説や映画に用いられるハイパーリンクやシェアードワールド的な手法が、よりリスナーを彼らの楽曲へとのめり込ませる。

 いち若者としてのラブソングや等身大の楽曲が多い中、“ジャーニー”で描かれているのはハイエースの型式を示す《H200系》や《いつまで経っても/将来のロックスターでいる気はない》という文言から察するとおり、バンドマンとしての人生。ノイジーなギターで幕を開けるイントロや、ドラムソロのセクション、メロディアスなベースライン、曲間のテンポチェンジなど、バンドのグルーヴや個々の存在感にフォーカスしたサウンドメイクが、曲の世界と稲生の決意をより強固なものへと引き上げている。静と動を効果的に用いたアレンジや繊細なギターのリフレインが楽曲のロマンチシズムを優しく紡ぎ出す“夜を浮かべて”は、今作においてバンドの表現力の成長が如実に表れた楽曲。4人の溶け合うような、支え合うような音像からも、より深まったバンドの結束が感じられた。

 まだ見ぬ未来や大人になった自分に思いを馳せる“人生に冬が来ても”や、《僕らはきっと/大人になれないんじゃなくて/なりたくないんだ》と歌う気だるさと鋭さを内包したミディアムナンバー“シガレット”には、今年二十歳を迎えた稲生が歌うからこその生々しい哀愁と希望、焦燥、戸惑いが混ざり合う。迷いながらも様々なことに考えを巡らし、愚直に気持ちを削る――そんな大人と子どもの狭間で揺れる若者の生き様が刻まれた『ジャーニー』。まだ行く当ては定まらなくとも《僕ら終わりまで/出来るだけ遠くへ行こう》と歌う彼らの姿はとても凛々しく逞しい。

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