超レア、エミネムがNYプレミアに登場──ドキュメンタリー『STANS』で「長年ついてきてくれたファンへの俺なりのありがとう」と語る。「これからもファンのためにラップしていく」

超レア、エミネムがNYプレミアに登場──ドキュメンタリー『STANS』で「長年ついてきてくれたファンへの俺なりのありがとう」と語る。「これからもファンのためにラップしていく」

エミネム自身もプロデューサーの1人であるドキュメンタリー映画『STANS』のニューヨークプレミア上映が、8月6日にピア17で開催された。そこでなんと、エミネム本人が舞台挨拶に登場。私も会場に足を運んだのだが、彼は集まったファンの前で、極めて貴重なスピーチを披露した。

以下映像。


エミネムを間近で観られる非常に珍しい機会にファンは大興奮。「I LOVE YOU」の声援が次々に飛び交い、それにエミネムも「俺も愛してるよ!」と返事しながらのスピーチとなった。以下語っていた内容。

「よぉ! みんな元気か?どう? ちょっとだけ話させてくれ。
みんな今日は、来てくれて本当にありがとう。
マジで感謝してる。なんで俺がこんなにヤバいって思ってるか、話させてくれ。
“Stan”って曲を書いてた頃の俺は、自分の音楽が人にどんな影響を与えてるのかなんて、正直全然わかってなかったんだ。

でもキャリアを振り返ってみると……こうして人の心に影響を与えてこられたって事実が、信じられないくらいすごいことなんだ、と。

(ファンから)『I LOVE YOU!』。ああ、俺も愛してるぜ。

何を言えばいいか必死に考えてんだけど……この映画について言わせてくれ。この曲を書いてたときのことだけど……(ファンから)『I LOVE YOU!!』あぁ、今『愛してる』って言ってくれたやつ、くそっ、俺も愛してるよ。

それで、当時は、自分の音楽が人に与えてる影響なんてわかってなかった。でも、あの頃も、そして今こうして目の前にお前らがいてくれるのを見ても、まだ信じられないんだ。俺の音楽が、お前らを突き動かしてきたっていう、その事実がさ。

この映画は……お前ら全員への感謝だ。ずっと、クソ長い間俺についてきてくれたみんなへの、俺なりの“ありがとう”なんだ。クソみたいな時も、くだらねぇやらかしも、しょーもねぇ時も、最高な時も、最悪な時も……その全部に付き合ってくれてありがとう。

この映画はみんなに捧げるし、心の底から感謝してる。キャストや関わってくれた全員への感謝でもあるし、何よりお前らみんなへの感謝だ。……ただ、ありがとう、それだけ言いたいんだ。

映画、楽しんでくれよな。そして終わったら残っててくれ。最後に“FACK”のミュージックビデオを世界初公開する――なんてな、冗談だよ、冗談。でも映画の後は残ってくれ、パネルディスカッションがあるから。Q&Aもやるって、ポールからちゃんと伝えろって言われてる。映画の最後にQ&Aがあるからな。楽しんでくれ。そして今日来てくれて本当にありがとう。愛してるぜ。ピース。Shade 5!」

映画の予告編はこちら。

プレミアの様子。


⚫︎映画について。

それで映画の上映が行われたのだけど、この映画の何が面白いのかというと、ミュージシャンのドキュメンタリー映画というのは数多あるけど、この映画はファンの視点を通して、エミネムのこれまでのキャリアを振り返ろうというものであること。しかも『STANS』というタイトルからも分かるように、中でも熱狂的なファンをソーシャルネットワークの中で探して集めて、彼らがエミネムにどのように救われたのか、影響を受けたのかを語るような手法になっている。エミネムのタトゥーの数でギネスブックに載っている人などが登場する。

当然エミネムも、無名時代の葛藤から、突然の名声に関して「心の準備ができてなかった」ことや、オーバードーズしたこと、そこからの『リラプス』に『リカヴァリー』などについて語り、ドクター・ドレーなどもコメントしている。どのように締め括られるのかなと思っていたら、エミネムが、「これからもファンのためにラップしていく」というものだった。「ファンじゃないやつはクソだ」と付け足したのもエミネムらしかった。逆に言えば、エミネムのキャリアを追ったありがちなものにしたくなくて、考えた手法だったのだなと思った。実際、終わってからのQ&Aでもポール・ローゼンバーグ(マネージャー)がそう語っていた。

また面白かったのは、映画を観ながら、自分にとってのエミネムとは何なのかを常に考える作品でもあること。

映画のティーザーがいくつか公開されている。


⚫︎Q&A

超レア、エミネムがNYプレミアに登場──ドキュメンタリー『STANS』で「長年ついてきてくれたファンへの俺なりのありがとう」と語る。「これからもファンのためにラップしていく」

上映後のQ&Aには残念ながらエミネムは登場せずに、監督のスティーブン・レカート(『What’s My Name: Muhammad Ali』脚本)と、ポール・ローゼンバーグ、“Stan”のMVに出演したデヴォン・サワ。また映画に登場するファンの2人が参加。

⚫︎最初にポール(下の写真右から3番目)が今作を作ることになった経緯について。
「みんな、いわゆる“キャリアを振り返る”タイプのありがちなドキュメンタリーをやりたがっていたんだ。でもマーシャルは、自分がそういうことをやる時期に来ているとはまったく思っていなかった。
彼の考えでは、それはキャリアの終わりに差しかかった人か、あるいはもう亡くなった人についてやるものだ、と。
だから僕たちには、ドキュメンタリーでありながらも彼の物語を語れる、しかもユニークなものを作る、という課題が与えられた。

それで、曲のヒットや、ツアー中に出会ったたくさんのファンたちとの交流を経て、『じゃあ、カメラをファンの方に向けて、彼らを映画の主役にしてしまったらどうだろう?』というアイデアが浮かんだんだ」

⚫︎さらにエミネムが成功とどのように向き合っていたかについて。

「もちろん彼は、自分の音楽についてはよく話すんだ。だけど……それと向き合うのに苦しむ部分もあって……それはまさに、『望んだものには気をつけろ』っていう、大きな意味での典型的な状況なんだよね。自分の娘と外出すらできなくなる。それが楽なはずがない。そんな状況がどういうものかなんて、俺には想像もつかないよ――家を出て、ガソリンスタンドやセブンイレブンに行って、ビッグガルプを買う――なんていう、普通のことすらできなくなる。そういうことが一切できなくなる。多くの人は、その自由を当たり前のものだと思っているけれど……だから、ある意味では彼は、自分の名声の囚人なんだ。だけど――彼がそれを手放したいとは思っていないと思う。でもだからといって、それに苦しんでいないわけでも、苛立ったり、我慢できなくなったりしないわけでもない。とはいえ、今の立ち位置には満足していると思うし、もう大人だし、その状況とうまく折り合いをつけてきたんだ」

⚫︎観た人に感じて欲しいこと。

「今日は、雨の中本当に申し訳なかった。でも、“Stan”のビデオが嵐だから、相応しいのかなと思った。この映画を観た人たちが、ファンの存在が俺たちにとってどれだけ大事なのかってことをこの映画を観て感じてくれたら嬉しい。みんながどんな存在なのかっていうことを本当に尊敬しているから。」

⚫︎監督(下の写真右から2番目)はファンの出演について。

「つまり…アルバム『Recovery』を聴けばわかるけど、あれは人々に人生を変えるきっかけを与える、“奉仕”のような作品なんだよね。

だから、そのアートの精神を映画にも反映させるなら、そのテーマに本当に共感している人たちを探しに行くんだ。そこで、素晴らしいキャスティング会社と組んで、最終的に出演することになった人たちを選ぶのに、ものすごく時間をかけたんだ。そんな理由もあって、映画の後半部分は観客を本当に驚かせるものになっていると思うし、そのことをものすごく誇りに思っている」

⚫︎デヴォン・サワ(下の写真左から3番目)が、「(ビデオ出演して以来)エミネムからは、まだ手紙の返事ももらってないし、電話もかかってきてない。でも絶対いつかかかってくると思うよ」と言って会場を笑わせた。もちろん、“Stan”の歌詞の内容とかけて語っている。

超レア、エミネムがNYプレミアに登場──ドキュメンタリー『STANS』で「長年ついてきてくれたファンへの俺なりのありがとう」と語る。「これからもファンのためにラップしていく」

“Stan”のMV
超レア、エミネムがNYプレミアに登場──ドキュメンタリー『STANS』で「長年ついてきてくれたファンへの俺なりのありがとう」と語る。「これからもファンのためにラップしていく」

映画がアメリカで今週公開。日本での公開については現時点では情報が得られず。

“Stan”のMVと関係した、処方箋薬のボトルになっているポップコーン入れも気が利いていた。

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