日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by Mettie Ostrowski/ NYFF pic by Mettie Ostrowski/ NYFF

去年はボブ・ディランになりきった姿を見せたティモシー・シャラメだが、その次に選んだ作品が、なんと1950年代のニューヨークを舞台にした卓球コメディ映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(原題:Marty Supreme)だ。本作で彼が演じるのは、実在するアメリカの卓球選手マーティ・ライスマンをモデルにした人物。A24が史上最高額の制作費を投じた作品のひとつとも言われている。

監督を務めたのは、『アンカット・ダイヤモンド』で知られるサフディ兄弟の兄、ジョシュ・サフディ。作風には『アンカット・ダイヤモンド』と通じる非常に似た側面があり、主人公マーティの巨大な夢と野望を軸に、そこへ辿り着くまでの道のりは、壮大でカオティックな悪夢に次ぐ悪夢が連なるドタバタ劇として描かれる。物語はニューヨークから始まり、日本へ向かう展開が重要な意味を持って立ち上がってくる。

そんな振り切ったコメディに挑んだティモシーの演技は、ディラン役とはまったく異なるベクトルで、ただただ天才的としか言いようがない。個人的にはオスカーをあげてほしいと感じてしまうほどだ。物語そのものが暴走する瞬間もあり、そこで評価が分かれる可能性はあるものの、現時点ではRotten Tomatoesでも95%という高評価を獲得している。

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by A 24pic by A 24

⚫︎タイラー・ザ・クリエイターの映画デビューについて。

本作では、なんとタイラー・ザ・クリエイターが俳優デビューを果たしている。てっきり一瞬だけ登場するカメオ的な役かと思っていたら、マーティの友人という、物語の中でもかなり重要な役どころを演じていて驚かされた。この映画は今年のニューヨーク映画祭でサプライズ上映が行われたのだが、その場にもタイラーは姿を現し、壇上で監督に自ら感謝の言葉を述べている。


「言葉にできないほど感謝している。俺はピアノを弾いて、かっこいい服を着ているだけで、演技なんてまったくしたことがなかった。でもこの人は本当に素晴らしくて、心から信頼できた。だから『必要なことがあれば何でも言ってほしい。台本なんて読まなくていい、ただ現場に行くから』って言えたんだ。それくらい、この人を信じていた。
チームの細部に至るまでキュレーションし、導いていくそのやり方が本当に素晴らしくて……だから今、感情がこみ上げてきた。こんなチャンスをくれて、本当にありがとう。愛しています。みなさん、拍手をお願いします」

またタイラーは、巨大な夢を抱きながらも、周囲の誰からも理解されない主人公マーティの姿に、すぐに共感できたとも語っている。


「脚本を読んだときに、“ああ、俺にはマーティが分かる”って思った。マーティみたいな人物って、理解できるか、できないかのどちらかだと思う。でも俺は完全にわかる。周りが何を言っていようが、“みんなクレイジーだな”って感じで、正直どうでもいい。自分には目標があって、それが何かもはっきり見えている。君たちが理解できない? それでいい。じゃあ君たちはバカだってだけの話だ、ってね。
それに“恐怖はどうするんだ?”と聞かれて、“そんなものは頭に入ってこない”って返すセリフがある。あれがすごく好きなんだ。あの感覚は、俺には本当によくわかる。だから確実に言えるのは、自分の役柄よりも、マーティのほうにずっと強く共感している、ということだ」

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by A 24pic by A 24

監督は、タイラーが演じたその役を、最初から「タイラー本人に演じてほしい」と考え、脚本を書いていたという。しかも彼がこの作品で演技に挑んだのは、アルバム『クロマコピア』をリリースし、まさにチャート1位を走っている真っ只中のタイミングだった。

タイラーは当時をこう振り返っている。

「アルバムが出た直後にブルックリン公演があったんだけど、撮影したのはその前日。しかも朝の3時とか4時とかだった。アルバムがチャート1位になっている最中で、アトランタやLAを行き来しながらライブをやって、その合間に撮影して……全然寝てなかった。
でもまあ、全部“愛”だよね。しかも俺の地元はずっと暖かいから、急にニューヨークに来たら寒さで体調を崩してしまって、本当にボロボロだった。あのシーンはたしか4回くらい撮ったと思うけど、使われているのは3テイク目か4テイク目だと思う。
車から降りて、“疲れ切った芝居”をするはずだったんだけど、実際は本当に限界でさ。マジで魂が抜けたみたいになって、そのまま倒れ込む感じだった。完全にリアルだったよ」

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by A 24pic by A 24

また、映画の中でもハイライトのひとつとなっている、タイラーがティモシー演じるマーティを乗せて車を運転するシーンについて、監督はこう語っている。

監督「タイラーの演技には本当に度肝を抜かれたよ。みんなで逃走するシーンで、彼が1940年代のタクシーを運転するんだけど、屋根の上には機材を山ほど積んで、クレイジーなライトも全部載せていた。撮影監督がそれを全部本気でライティングしていて、たぶん車の重さは本来の3倍くらいになっていたと思う。

しかも道は、これくらいしかないだろっていうくらい細い。その状況で彼はアクセルを踏み込むんだ。僕が『ここは本当に逃げなきゃいけない。命の危険がある状況だ』って伝えたからね。そしたらティミーが『ちょっと待って、ちょっと待って』って(笑)。
カメラは後部座席にいる僕とカメラオペレーターだけ。でも不思議なことに、彼の運転だとものすごく安心できたんだ。

タイラーって、知っている人ならわかると思うけど、そばにいると自然と“この人なら大丈夫だ”って感じさせる雰囲気がある。だからまったく心配していなかった。撮影後にカメラマンに『怖くなかった?』って聞いたら、『ちょっとだけ』って(笑)。
でもタイラー本人は『いや、俺は本当に運転するから。普段から乗りまくってるし、ドライブが大好きなんだ。あの車もすごく扱いやすかったよ』って言うんだ。

それに僕が毎回『マニュアル運転できる?』って聞くと、彼は『冗談だろ?』って顔をする(笑)。『俺を見たことないのかよ。頼むよ』ってね。ダンスができるのは知ってたけど、マニュアルも当然だよな。彼は何でも運転できるんだ」

タイラー「だってフェラーリF40がオートマだと思うか? もしそうだったら、それはもう“運転してる”とは言えないだろ」

タイラーは以前から演技に強い関心を抱いており、今後も俳優としての活動を広げていきたいと語っている。アルバムがチャート1位を記録している最中に、勝手のわからない場所へ身を置き、演じるという体験そのものも、彼にとっては特別なものだったという。

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by A 24pic by A 24

⚫︎サウンドトラックを手がけるのは、ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)


監督とは本作で3度目のコラボレーションとなるダニエル・ロパティンは、脚本を初めて読んだ段階で、タイラーと同様に、ティモシー・シャラメ演じるマーティ・マウザーというキャラクターに一気に惹き込まれたとInterview Magazineで語っている。とりわけ印象的だったのは、マーティが「セルアウト」を拒み続ける姿勢と、ほとんど不気味なほどの自己確信──やがて破壊的な方向へと転じていくその信念こそが、純粋な芸術性の証だとロパティンはいう。

「ある種、酩酊するようなレベルで彼というキャラクターにのめり込み、自分の中に彼を感じられるほどだった。それが、この仕事をとてもやりやすくしてくれた。本当に、本当に強烈に刺さったんだ」

舞台は1950年代だが、ロパティンはあえて「反抗的」な方向性を志向し、音楽には80年代的な感覚を前面に押し出した。『X-ファイル』や『トワイライト・ゾーン』の系譜を参照しながら、シンセサイザーによる霧がかった偏執的な空気を、映画全体に漂わせている。

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価 - pic by A 24pic by A 24

映画のテーマについて、ロパティンは次のように語っている。

「この映画は、さまざまな“誕生”の物語なんだと気づいた。文字どおりの子どもの誕生もあれば、新しいスポーツが生まれる瞬間でもある。そして、ひとりの若者が大人になっていく――つまり成長譚でもある。でもそれだけじゃない。これは、芸術的な誠実さについての物語でもあるんだ。

主人公は決して魂を売ろうとしない男だが、やがて妥協を迫られ、富と権力が支配する、吸血鬼のように古びた世界の迷宮を進んでいかなければならなくなる。同時に、ロウアー・イースト・サイドの閉鎖的で、互いに絡み合う人間関係の中で、彼を引きずり下ろそうとする人々とも向き合うことになる。マーティ・マウザーには、どんな状況でも揺るがない自己信念がある。

僕にとってこれは、アーティストであること、そして決して“セルアウト”しないことについての映画だった。本当に強烈に胸に突き刺さったよ。
『アンカット・ダイヤモンド』の音楽を手がけたときも、あの作品は大好きだったけれど、当時はどちらかというと“仕事として、与えられた課題をどうこなすか”という意識で向き合っていた。今回は違った。キャラクターに酔いしれるほど深く入り込み、自分自身の中に彼を感じられるほどだった。それが、この作品をとても自然に作らせてくれたんだ」

また、サウンドトラックで目指した方向性については、こう続けている。

「最終的に、スコアには欠かせない二つの要素がある、という結論に至った。ひとつはネオクラシカルな響き。それは、若者としてのマーティが足を踏み入れる世界――彼自身のものではない、伝統や規範、制約に縛られた世界を表している。ミルトン・ロックウェルのような卑劣な連中や、彼が逃げ回らなければならない警察が存在する場所だ。

もうひとつは、彼がまだ到達していない“自分の夢”の音楽だ。まだ手にしていない未来だけれど、そこへ向かうためには、自ら生み出し、前へ進む原動力にしなければならないもの――たとえ最終的な行き先が、当初思い描いていた場所とは違っていたとしても。その役割を担っているのが、スコアの中の電子音楽の部分なんだ。

この二つは、互いにぶつかり合い、あるいは踊るように絡み合いながら、映画の中で共存している」

サウンドトラックは、昨日のアメリカでの映画公開と同時にリリースされ、すでに各メディアから高い評価を受けている。

日本も舞台のティモシー・シャラメ主演A24制作卓球コメディ映画で、タイラー・ザ・クリエイターが俳優デビュー。サントラは、ダニエル・ロパティンですでに高評価

https://a24music.lnk.to/MartySupremeOriginalSoundtrack
『マーティ・シュープリーム』の日本公開は3月予定。

予告編はこちら。


主人公が破格の方法で頂点を目指すため、ティモシー・シャラメもなんとラスベガスのスフィアの頂点に初めて登るなど、面白い試みで宣伝を展開している。


またタイラーは、自分のブランドから『マーティ・シュプリーム』コレクションを展開している。

中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on