【今週の一枚】Official髭男dismの新曲“Pretender”はテクニックと感情がアンビバレントに絡み合った新感覚のラブソングだ

【今週の一枚】Official髭男dismの新曲“Pretender”はテクニックと感情がアンビバレントに絡み合った新感覚のラブソングだ - 『Pretender』通常盤『Pretender』通常盤
Official髭男dismが映画『コンフィデンスマンJP』の主題歌として書き下ろした新曲“Pretender”。コンゲームにロマンスが絡むという映画の世界観をなぞらえて制作していることもあり、ヒゲダンにとって新境地の楽曲だ。

『ROCKIN'ON JAPAN』2019年6月号に掲載されているインタビューでも、これまで彼らのルーツにないUKの音楽の要素を取り入れた旨を語っていた。これだけだと「らしさ」を捨てているように聞こえるかもしれない。だが彼らはどの楽曲でも妥協せず、必ず自分たちの感性が反応する楽曲に着地させるという強いポリシーと実力を持っている。ヒゲダンがピアノポップバンドを名乗りながらもロックバンド的な芯の強さやエモーションを纏っている理由はそこにあるのではないだろうか。

その結果、“Pretender”はこれまでと違う方法論で彼らの持ち味が光る楽曲に仕上がった。イントロとAメロはギターのリフレインや打ち込みなど煌びやかな音色で淡々とした空気感を作り出すが、Bメロで急にピアノが前面に出た生音のアプローチにシフトする。一般的な流れならばサビはこの生音感をさらに壮大にさせるが、“Pretender”が挑戦的なのはサビで再び淡々としたサウンドに戻るところだ。そこで本領を発揮するのがダイナミックな起伏を描くグッドメロディ。サウンドが一歩後ろに引くことでメロディと歌にスポットが当たる。淡々とした浮遊感のある音と、感情が露わになる歌詞・歌唱とのコントラストは、まるで闇と光が趣深く同居する都会の夜景のようだ。

この相反性やコントラストこそ“Pretender”の真髄である。コンゲームという嘘と真実のせめぎ合い、《君の運命のヒトは僕じゃない》と言いながらも《「君は綺麗だ」》と告げる曖昧さ、《綺麗だ》とは言えても「好きだ」とは言えないもどかしさ、共に過ごせない苦しさと出会えた喜び――揺れる感情を音でも言葉でも表現している。

人間はどうしても正解を求めてしまう生き物だが、《答えは分からない 分かりたくもないのさ》という正解も存在するし、それが正解かどうかも、そもそも正解という概念が正解かも定かではない。けれど我々人間は寂しさから大切なものを知り、苦しみから安らぎの素晴らしさを覚え、悲しみに触れるたびに愛情を実感してきた。相反が美しいことを本能的に知っているのだ。ストレートな愛を叫ぶ曲でもあり、素直になれない僕の歌でもあるように、受け取る人間によってこの曲の意味合いは変わってくるだろう。その自由度の高さは、ポップミュージックの持つ懐の広さだ。

イントロから鳴るギターのリフレインを、アウトロで生ピアノが単身なぞり、この楽曲は幕を閉じる。隅々まで繊細に構築されたサウンドの美意識とスケール感に思わず恍惚としてしまった。4人の熱いクリエイター魂と音楽愛が、またバンドを大きく成長させた。(沖さやこ)

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