今週の一枚 KANA-BOON 『Origin』

今週の一枚 KANA-BOON 『Origin』 - 『Origin』初回生産限定盤A『Origin』初回生産限定盤A

KANA-BOON
『Origin』
2016年2月17日(水)発売



眩しいくらいの高揚感に満ちたアンサンブルとともに《雑多な街の流れから抜け出したいから/ここへ来たんだろ/踊れ、歌え》と高らかに突き上げる“オープンワールド”。ワイルドなロックンロール感に満ちたリフとともに炸裂する“机上、綴る、思想”“anger in the mind”のダイナミズム。谷口鮪(Vo・G)の切実なファルセットのメロディが、僕らの魂を画面の向こうの戦禍と直結させる“インディファレンス”――。“なんでもねだり”“ダイバー”“talking”“ランアンドラン”といったシングル曲すら氷山の一角と思わせるほどに、KANA-BOONの3rdアルバム『Origin』のサウンドとメロディは驚くほどに多彩なクリエイティヴィティをもって弾けまくっている。

そして――『Origin』(起源、原点)という言葉を冠したこのアルバムの空気感は、過去2作=『DOPPEL』『TIME』のヴァイブとも、前述のシングル曲が想起させるイメージとも異なる。今作を貫いているのはまさに、「自身の『原点』との対話」とでも言うべき、真摯で無防備なモードそのものだ。

2013年秋のデビュー以降、およそロックバンドが気の遠くなるほど長い時間をかけて手に入れるであろう「夢」の数々を、KANA-BOONはものすごいスピード感で獲得してみせたし、その目の眩むような進化の加速度は僕らにとっては「痛快な快進撃」そのものだった。が、メンバー自身にしてみれば、本来なら歩いて昇る高嶺の頂へ超高速急上昇するような環境の激変は、喜び以上にカオスに他ならなかっただろうし、何より彼ら自身を「『夢が叶ってしまった後の風景』をデザインする」という新たな、途方もないタスクと対峙させることになった。

「『楽しいと感じなきゃいけない』っていうのがすごく強くて。同級生の男4人で遊んでいる楽しさはあるんですけど、対音楽になった時に、充実感とか達成感みたいなものはそんなになくて。音楽を始めた頃は自然にあったものなのに。それがショックやったし、(中略)夢を仕事にするっていうのはこういうことなんですけど、それじゃだめなんですよね」――『ROCKIN'ON JAPAN』2016年3月号のインタヴューで、谷口は『Origin』以前の心境をそんな言葉でストレートに語っている。では、そこで彼はどうしたか。自らの葛藤を華やかな虚像で塗り固めるのでもなく、威勢のいいメッセージをフィクションとして綴るのでもなく、苦悩し煩悶する自分自身を「自分たちがかつて抱いていた夢との対比」という形で露にしてみせたのである。

《欲しかったもの手にする度に君は離れてく/取り戻さないともう息も止まるよ》(“スタンドバイミー”)

《ときどき不安でさ/戦う時にさ 立ち向かえるかなぁ/君を守れるかなぁ》(“Origin”)

無垢な初期衝動を燃料に突っ走っていた、まだ無名だった頃の自分に歌いかける言葉はそのまま、夢への途上でもがき試行錯誤している者へのこの上なくリアルなエールとして響いてくる。「原点との対話」を通して谷口は、改めて自分自身が今いる場所の高度を認識し、かつて胸の内で繰り広げていた限界なき夢の風景を取り戻したのだろう。それはすなわち、「原点」と「今」、さらに「その先」への可能性をひとつの道でつなげるために必要不可欠な行程でもあった。《だから次は僕の番だ/オンリーワンのヒーロー/この声で歌うよ》(“Origin”)……ひたむきに自分の夢に向かい走り続けてきたKANA-BOONが、その音楽に触れる誰かにとってのでっかい夢になるための重要な一歩が、今作には確かに刻まれている。(高橋智樹)
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