TVドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』の主題歌としてオンエアされ、先頃のドームツアーの京セラドーム大阪公演でライブ初披露されていたback numberの新曲“オールドファッション”。公式サイトの『オールドファッション』特設ページに掲載されたインタビューで、清水依与吏(Vo・G)はドラマの脚本を読み、歌詞制作にあたったことを語っている。
《単純な事なんだきっと/誰がなんと言おうと/どれだけの時間が命が巡ったとしても/風は花を探して/夜と月が呼び合うのと同じように/君には僕なんだ》という最終コーラスにたどり着く歌詞は、やるせなさを抱え込みながらも強い確信に満ちた、ドラマのストーリーに寄り添う奥ゆかしいものになっている。同様にコーラス部分の逡巡する心を描きつつ力強く放たれるメロディが、歌詞に込められた思いを後押ししていて胸に響く楽曲だ。
一方で歌い出しのヴァースには、《君》との距離感を推し量るような不器用な思いが綴られており、依与吏節が全開である。この不器用さからコーラス部分の確信への跳躍が、わずか4分強のポップソングの中で、ドラマティックな心模様を表現している点も見事。イントロから深い印象をもたらす壮麗で温かなストリングス含め、アレンジを担当したのは島田昌典だ。
前述のインタビューの中で、清水は“オールドファッション”という楽曲タイトルに込めた意図について語っている。オールドファッション(old-fashioned)という言葉は「古き良き」という意味だが、遠回しに「時代遅れの」、「前時代的な」といったネガティブな意味が込められてしまうこともある。しかし、認知機能を蝕む病の前にはすべての記憶がかけがえのないものになってしまうわけで、この歌の前では「オールドファッション」という語に含まれるネガティブな意味さえ無効化されるわけだ。一生を左右するような大恋愛は、ラブソングは、もしかすると前時代的なのかもしれない。しかしそれがどうした、と言い切る強さが、この楽曲には備わっている。
さて、カップリング曲の“サマーワンダーランド”と“Jaguar”は、いずれもアップリフティングな曲調でバンドによるプロデュース。揃いも揃ってアルコールの酩酊感を前提に始まる大人びた恋の歌で、どうしても夏ソングの曲調になってしまった“サマーワンダーランド”は今後のライブでの活躍に期待したいところ。そして強烈な誘惑と衝動にまみれた“Jaguar”は、バンドとしての音の衝突が最高にスリリングだ。懐の深さを感じさせる一方で、今も不器用にドタバタしている歌の数々がチャーミングなシングルである。(小池宏和)