今週の一枚 ゆず『ゆずイロハ 1997-2017』

今週の一枚 ゆず『ゆずイロハ 1997-2017』

デビュー20周年を迎えているゆずの3枚組(「イ」、「ロ」、「ハ」)ベストで、「イ…《いくつもの 日々を越えたよ 20年》」、「ロ…《路上から 思えば遠くへ きたもんだ》」、「ハ…《ハモります いつでもきみは ひとりじゃない》」というテーマが設けられ、そのテーマに基づいてそれぞれのディスクが選曲されている。「イ」には“イロトリドリ(ゆず×いきものがかり)”、「ロ」には“サヨナラバス(ゆず×back number)”、「ハ」には“悲しみの傘(ゆず×SEKAI NO OWARI)”という、豪華コラボによるカバーも収録。祝祭感が大きく膨らんでいてナイスだ。

個人的な話だが、僕は学生の頃、横浜・伊勢佐木町周辺の映画館にちょくちょく通っていた。映画を見終えて関内駅に向け歩いていると、当時の松坂屋前でゆずの路上ライブに遭遇したことがある。インディーズの『ゆずの素』がリリースされる少し前だと思うが、その頃にはすでにたくさんのオーディエンスが集まっていた。それから1年も経たないうちに、ゆずは全国レベルの人気者になった。

それまでにも、例えば長渕剛や尾崎豊の歌を弾き語りカバーしている路上ミュージシャンを街中で見かけることがあったが、ゆずの登場以降、フォークのデュオやトリオ、あるいはバンド編成の若い路上ミュージシャンが爆発的に増えた。若きゆずは、音楽というカルチャーそのものを若い世代に手渡す役割を担ったのだと思う。1960年代のグループサウンズ、BOØWYやザ・ブルーハーツがいた80年代末からのバンドブーム、あるいは、SPEEDらが活躍した90年代半ばのダンスポップのように。

ときには楽曲に強い毒っ気も込めてライブをしていたゆずは、すでに隆盛を極めていたバンド文化にもダンス文化にも馴染めない、宙ぶらりんでやさぐれた若者たちの象徴のように見えた。それから歩みを止めることなくミュージシャンとして技術を向上させ、大きなホールで豪華なセットのステージに立ち、ふたりきりでドーム一杯のオーディエンスを沸かせているのを目の当たりにしても、あの頃のイメージが消えることはない。

あなたがゆずに出会ったのは、どの曲だったろうか。国民的アーティストになることは大変なことだし、ましてや20年もの間、第一線で活躍するなんてのは偉業に違いない。だけれども、僕は若い世代が音楽に手を伸ばし、自分たちなりの方法で新しい現象を巻き起こしてしまうことにこそロマンと希望を感じる。このベスト盤を聴きながら、横浜の人気者になるよりももっと前の、まだ何者でもなかったはずのふたりに、思いを馳せている。(小池宏和)
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