【今週の一枚】『POP VIRUS』と5大ドームツアーはなぜこれまでの星野源の集大成となったのか? 映像作品から読み解く

【今週の一枚】『POP VIRUS』と5大ドームツアーはなぜこれまでの星野源の集大成となったのか? 映像作品から読み解く - 『DOME TOUR “POP VIRUS” at TOKYO DOME』『DOME TOUR “POP VIRUS” at TOKYO DOME』
星野源が『POP VIRUS』というアルバムを作り上げたのは、もちろん自分がやりたい音楽を表現したいというごくシンプルな欲求からに違いないはずなのだが、どこか音楽の、ポップの楽しみ方に変革をもたらす、その使命を初めから背負って生まれてくるような、そんなイメージをリリース前から抱いていた。前作『YELLOW DANCER』、その後にリリースされた国民的ヒット曲の数々、「Continues」ツアーなど、ここへと至る布石は常に打たれていた。というより、星野源はいつだって「自分の作品」というよりも「音楽」そのもののことを考え続けながら楽曲を生み出してきたのだなあと、この頃はよくそう思う。

『POP VIRUS』を引っさげて行われた5大ドームツアーはまだ記憶に新しいが、その東京公演を収録した映像作品がリリースされ、改めてアルバム『POP VIRUS』によるポップの変革、そのウイルスへの感染は、現在進行形でさらなる威力を発揮している最中なのだと実感する。アルバム、ツアー、そしてその映像作品という流れの中で、何度も繰り返し耳にする楽曲たちが、自分の肉体の中でどんどん強く意味を持っていくような感覚を味わっている。今回のドームツアーは『POP VIRUS』を聴き、自分がその音楽ウイルスのキャリアになったという自覚を味わうような、そんなライブだったのだと、この映像作品を目にして振り返っているところ。

アルバム『POP VIRUS』を聴くということはつまり、音楽の聴き方や楽しみ方の新しい扉を開け、音をより自由に感じるためのウイルスを体内に取り入れたということだったのではないか。ポップミュージックには枠組みなど必要ないはずなのに、いつの間にか「ポップ」という言葉さえもどことなく狭義なものになりつつあった日本の音楽シーンで、もう一度ポップ=自由であることを体現してくれ、一人でもバンドでも、生音でもMPCによるビートメイキングでも、そこに線引きなどなく、すべてが当たり前のようにポップであることを見せてくれたのが今回のツアーだった。
そして一人一人のプレイヤーが奏でる一音、一打、一声、あるいはダンサーが表現する繊細な表現が、アンサンブルとなってその場に表出することの奇跡。その感動に立ち会う自分自身の鼓動ごと「音楽」であることを、このツアーでは感じさせてくれた。その感覚が、この映像作品では見事なカメラワークやカット割りで追体験できる。現場での臨場感はそのままに、場面によっては映像だからこそダイレクトに伝わるリアル感もあったりする。改めて、とんでもないことを実にさらっとやってのけた最高にクールなライブだったなと思う。それなのに、これまででいちばん有機的で熱い思いの込み上げるライブだった。これもまた星野源のポップの本質だと気づく。

《刻む 一拍の永遠を》と歌う“Pop Virus”は、そのフレーズごと今や身体の中に刻まれていて、そのビートの心地好さから抜け出すことができない。生演奏のバンドやストリングス、ホーンセクションに加えて、MPCのビートが奏でた「今」の一拍。過去と現在と未来とをひとつにつなげる普遍のビート。ポップミュージックがその時代を象徴するものでありながら、10年先も20年先も50年先にも、聴き継がれて、語り継がれて、歌い継がれていくものでもあるということを、理屈ではなく体でわからせてくれたもの。それが『POP VIRUS』の正体だったのである。そしてこれこそが、星野源の「音楽」なのである。

ライブ映像は、オープニングの“歌を歌うときは”の弾き語りから、途中に流された「一流ミュージシャンからのお祝いコメント」も、サブステージでの親密なバンド演奏も、STUTS(MPCプレイヤー)のソロコーナーも、もちろんアンコールのニセ明と星野源の初共演も、すべて余すところなく収録されている。そして特典映像では、全国各地でのライブやリハ、バックステージの様子などを追うドキュメンタリー、そして、各地のサブステージで繰り広げられたMCパートを編集し、それをさらに後日メンバーたちと振り返る座談会の様子まで収録されていて、星野源をはじめ『POP VIRUS』に関わる人たちもまた「音楽」を心底楽しんでいることを知る。『POP VIRUS』というアルバムの完成はひとつの集大成であったと言えるが、それは決してゴールではない。この作品によるインフルエンスの規模はアルバムリリースから8ヶ月が経過した現段階においてもなお拡大中だ。その過程を知る重要な映像作品が今作なのである。(杉浦美恵)
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