今週の一枚 MIYAVI『Fire Bird』

今週の一枚 MIYAVI『Fire Bird』

MIYAVI
『Fire Bird』
2016年8月31日(水)発売

前作『The Others』の制作に先立って、生活と音楽の拠点をアメリカへと移し、「アメリカはじめ海外でも通じる“日本発”の音楽」から「世界中で鳴り響くための音楽」へ自らの表現を明確にシフトチェンジしていたMIYAVI。
セミアコギターのスラップ奏法で切れ味鋭いビートを繰り出す音楽的な記号性を自ら封印することで、彼はさらなるビートとサウンドの鍛錬を行ってきた。文字通り「MIYAVI像を壊す」ことで、MIYAVIの音楽は新たな強度と訴求力を獲得したのである。

「欲してたんですよね。何かわからないけど、自分をボコボコにしてくれるような何かを。この国にはそれがなかったんですよね。この感じの中で満足してエスタブリッシュしていったら、たぶん死ぬ時に笑って死ねねえなって。それは自分だけじゃなくて、家族に対しても、応援してくれるファンに対しても。まだまだ道の途中だし、満足もしてないけど、今ははっきりとその距離感も掴んでるし、こっちが正しい道だってわかる」
(『ROCKIN'ON JAPAN』2015年5月号)

『The Others』リリース時のインタビューで、MIYAVIは沸き立つ闘争心をそんな言葉で語ってくれた。そして――『The Others』から1年4ヵ月ぶりとなる新作アルバム『Fire Bird』に、そのアティテュードはより高純度に結実している。

『MIYAVI』『The Others』で推し進めてきた「MIYAVIハイパー化計画」にさらにダイナミックに拍車をかけたような音像は、極彩色サイバーパンクとでも言うべきスリリングな悦楽感をもって響いてくるし、タイトル曲“Fire Bird”など強烈なビート感の楽曲からは、ロックよりもダンスミュージックのスタイルに身を委ねて己を解き放とうとしているMIYAVIの姿が窺える。

しかし――そんなハイブリッドな爆風の如きサウンドに満ちているにもかかわらず、今作『Fire Bird』の楽曲群に触れた後に深く印象として残るのは、ロックもダンスも含めたポップミュージックそのものを今、ギターの力でさらに進化させようとする、日本もアメリカも踏み越えた「サムライギタリスト」としての不屈のヴァイタリティそのものだ。

それこそロドリーゴ・イ・ガブリエーラのように、純然たる「ギターミュージック」として英米など各国のチャートで存在感を示してきたアーティストはごく稀に存在するが、MIYAVIの視線の先にあるビジョンはそれとは明らかに違う。
ギターを愛し、ギターの無限の可能性を知る者として、「本場」=アメリカのルールとマナーに則って、真っ向勝負でポップシーンに道場破りを仕掛けること。それこそが今、彼が人生を賭けて取り組んでいる最大の闘いである――ということを、この『Fire Bird』というアルバムは確かに伝えてくれる。(高橋智樹)
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