今週の一枚 米津玄師『LOSER/ナンバーナイン』

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米津玄師
『LOSER/ナンバーナイン』
発売中

『アンビリーバーズ』以来約1年ぶりのシングルで、ダブルタイトルの表題曲2曲プラス“amen”の計3曲を収録。11月から繰り広げられる新ツアーに向けても期待が高まるリリースだが、まず“LOSER”は今夏フェス出演時に披露されていた。とても強力なナンバーだったので、僕はROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016のあと、「SUMMER SONIC 2016」のパフォーマンスもがっちりと見届けた。

“LOSER”ミュージックビデオ

ちょっと話が遠回りするけれど、今夏フェスではフジロックで米国のベックが《俺は負け犬さ、殺すなら殺せよ》と歌う1994年のシングル“Loser”を、一方サマソニでは英国のレディオヘッドが《あなたは特別な人なのに、僕は本当にどうしようもない奴なんだ》と歌う1992年のデビュー曲“Creep”を披露して話題になった。いずれもシーンへの登場時に衝撃をもたらし、アーティストとしてのイメージを決定的にした名曲だ。ロックスターは、自虐的なまでの姿勢を打ち出して生贄のように身を捧げ、それに触れる者の魂を救うことがある。

「フェスのステージは、俺のような負け犬が立つ場所じゃないと思っていた」という意味のことを語り、しかし遠慮がちにではなく、極めてアクティブに“LOSER”を歌った米津玄師。《イアンもカートも昔の人よ 中指立ててもしょうがないの/今勝ち上がるためのお勉強 朗らかな表情》。そう、イアン・カーティスもカート・コバーンも自己否定の塊のようなアーティストだったが、その痛ましい姿ゆえに人々の心を揺らした。《アイムアルーザー どうせだったら遠吠えだっていいだろう》。今や大きなステージに立つ米津玄師だからこそ、「負け犬である」という自覚と一緒に、新しい世代のスターとしての自覚を手に入れたのではないか。

一方の“ナンバーナイン”は、ルーヴル美術館特別展「LOUVER No.9 漫画、9番目の芸術」のテーマ曲。アートに深い造詣を持ちイラストレーションにも非凡な才を発揮する米津玄師は、《何千と言葉選んだ末に 何万と立った墓標の上に/僕らは歩んでいくんだきっと 笑わないでね》と、過去と未来に思いを馳せる。痛みを抱えた無数の人々の表現の歴史が、未来に向けて希望の光を射してきたのだということ。“LOSER”とはまた異なる視点で、自己表現に向かう強い覚悟とモチベーションを伝えている素晴らしい楽曲だ。こんな表題曲2曲があるからこそ、現代的なゴスペルのごとき最終ナンバー“amen”も強く胸に響く。(小池宏和)
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