FLOWER FLOWER
『実』
11月26日発売このアルバムがどのように制作されたのかは詳しくは知られていない。
僕も知らない。YUIとしての活動を休止したのち、2013年からFLOWER FLOWERとして始動。
その直後からスタジオ・セッションが始まり、制作された、ということぐらいしかわからない。
彼女らのライブを僕は3回観ていて、そのうち2回はyuiと少し言葉をかわす機会もあったが、
このアルバムについては特になにも話していない。そして今初めてその全貌を聴いて衝撃を受けている。1曲目“願い”の最初のピアノの1音から、もうただならない生々しさと緊張感が漲っている。
そして、
〈待ってくれないよ 待てないよ そっと呼んでるよ〉
と歌うyuiの震える声とリアルな息遣いを聴いて、
このFLOWER FLOWERがyuiにとっての全生命をかけたバンドなのだということが一瞬でわかった。
この曲のクライマックスで〈鳥のよう 鳥のよう 鳥のよう 鳥のよう〉と叫ぶようにyuiは歌うが、
その声はこれまでのYUIの歌で一度も聴いたことのない、全身に鳥肌が立つようなエモーショナルな声だ。
おそらく音程の修正やエディットを一切していない、一発録りで録音されたテイクなのではないか。そこから13曲、
海外の先鋭的なインディー・アーティストと比肩する冒険的でハイクオリティーなサウンドと、
スケール感と深さを増したメロディーと、
心のリアルをそのままの温度でぶつけるような真実の歌詞と、
アーティストとしてyuiの姿があらわになった声が、
美しいロック・ソングの連なりとして展開していく。
こんなにも美しいロック・アルバムを聴くのは久しぶりな気がする。
以前、ソロ時代のYUIについて
「僕はYUIはアメリカから10年遅れていた日本の女性シンガーソングライターのメロディーとグルーヴを一気に更新した画期的なアーティストだと思っている」
と書いたことがある。
10代の頃から、YUIのメロディーと歌は特定の先輩の女性アーティストの影響下にあるものではなく、独自だった。
そしてYUI以降は、YUIの強い影響下にある女性アーティストは数多く出てきた。
つまりそういうことだ。
YUIは時代を更新するくらいのスケールの才能の持ち主なのだ。ただ、時代がYUIに負わせた役割は「創造性によって音楽の新しい未来を切り開くアーティスト」ではなかった。
「YUIというイメージをまっとうするポップ・シンガー」だった。
それを引き受けながら素晴らしいアルバムを作り、素晴らしいライブを観せてくれたYUIの姿勢は立派なものだった。
だが、その枠の外に広がる彼女の「可能性」について、僕は思わざるを得なかった。その新たな可能性の広がりを、1stアルバムの時点でここまで美しく・鮮烈に・完成度高く聴くことができるとは正直思っていなかった。みんなと楽しくカラオケで歌える曲はおそらく1曲ぐらいしか無い。
そんなことはもはやどうでもいい。
どの曲も、耳を奪って離さない強烈な魅力がある。
いたずらな実験作などではなく、どの曲も恐ろしいほど美しい。
その美しさをもって、FLOWER FLOWERはポップ・シーンに新しい価値観を生み出すはずだ。
