今週の一枚 スピッツ 『みなと』

今週の一枚 スピッツ 『みなと』

スピッツ
『みなと』
2016年4月27日(水)発売

待望のスピッツの新作が届いた。ダウンロード・シングルは一昨年、昨年とリリースがあったものの、パッケージ作品となるシングルは、実に2年11ヶ月ぶり。スピッツの場合、やはりパッケージ作品として手元に残る形でのリリースが嬉しい。紙の歌詞カードを手にして言葉を追いながら聴く、スピッツの曲は、そんな時間がとても幸せだと感じさせてくれるからだ。それは彼らの過去作品を久しぶりに聴くときもそう。何度でもCDを取り出しては歌詞を目で追う。その度、心が引き寄せられるポイントは変わるし、自分なりの歌詞の解釈も変わったりする。それは草野マサムネが書く歌詞が、対象の輪郭を曖昧にしながら、何重にもストーリーが想像できるような余白を残しているからだと思う。今回のシングル曲“みなと”は、この余白こそがスピッツの持つ魅力であると実感できる作品だ。

「港」と言われれば、具体的な景色が思い浮かぶ。別れの場所、再び会うための場所、接岸された船。《船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる》という始めの1行で、その景色がゆっくりと広がる。そして、会えなくなってしまった誰かを思って《今日も歌う 錆びた港で》という歌詞へと続いていく。歌うということは泣くことだとも思えるし、そこで作った歌は、思い出に変わってしまう日々を言葉として記しておくことだとも言える。《汚れてる野良猫にも いつしか優しくなるユニバース》という歌詞にしても、この野良猫は自分自身なのか、それとも港にいる猫を眺めたものなのか、わからない。そして、港からいなくなってしまった人にはもう二度と会えないのか、いつか再会できるのか、それもわからない。しかしどちらに解釈しても、少し寂しくて、でも穏やかな、この余白のあたたかさは変わることがない。港を“みなと”と、平仮名にひらいたのも、思い描く場所が文字通りの「港」でなくてもいいという、やさしい余白を感じさせてくれる。

カップリング曲の“ガラクタ”がまた良い。言葉遊びのような歌詞と思わず体が揺れてしまうロックサウンド。とは言え“みなと”もそうだけれど、このところのスピッツは、サウンドにも余白を含ませることを意識しているように思う。もともと音を詰め込むタイプのバンドではないけれど、より音に膨らみが感じられる。長いキャリアを経ても、なお進化や変化を続けている、と同時に変わらぬ魅力を感じさせるというのは、バンドとして凄いことだと改めて実感する。そして、この素晴らしいシングル曲を聴き、そろそろアルバムも……と期待が膨らむばかり。(杉浦美恵)

スピッツ / みなと
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