2018年3作目となるシングルで、表題曲“今夜このまま”はこの10月から放送されているTVドラマ『獣になれない私たち』の主題歌。《苦いようで甘いようなこの泡に/くぐらせる想いが弾ける/体は言う事を聞かない/「いかないで」って/走ってゆければいいのに》という歌い出しから始まる歌詞は、クラフトビールバーを舞台にさまざまな背景を持つ大人たちの思いが交錯する『けもなれ』のストーリーを巧みに汲み取っていると言って良いだろう。
あいみょんが手がける歌詞のテーマは、驚くほど多岐に渡る。新曲が届けられるたびに驚かされると言ってもいい。インディーズ時代から聴き続けているファンも、メジャーデビュー時の頃から追っているファンも、きっと同様の思いを抱いているのではないか。個性を作品に宿らせるアーティストは、ときに自ら作品化した個性に縛られてしまうことも少なくないし、それをアーティストのイメージ像として引き受けてゆくこともままあるが、あいみょんにはそれが希薄だ。
まだ23歳(今春、話をさせて貰ったときに本人は「もう23歳」と言っていたが)の彼女は、一人の人間として積み重ねる経験に正直で、その経験をいつでも最新の作品に落としこもうとしている。つまり、作風の多様性は「変化」ではなく純粋な「成長」なのである。あいみょんの本質的な魅力は、その表層ではなくもっと奥の方にある。新曲“今夜このまま”はドラマ主題歌なので尚更だが、物語の舞台設定から大人の強さと脆さを引き摺り出す、その強烈な作家性にこそ注目するべきだろう。おそらく彼女は、新しい経験をパッと音楽に結びつけることのできるトリガーのようなものを、備えているのではないか。
泡にまみれて神経を緩めないことには越えられない夜もある。そんな大人の強さと脆さの揺らぎが、“今夜このまま”ではアップテンポに迸る言葉の抑揚に、雄弁なメロディとして表れている。アコギを掻き鳴らすベーシックスタイルを用いながらも、ダンスポップ風のキラキラとしたトラックや遠く聴こえるエレクトリックギターのサウンドは、神経を昂ぶらせたまま飛び込んだ夜の酩酊感を巧みに演出していて見事だ。
《消えない想いは/軽く火照らせて飛ばして/指先から始まる何かに期待して/泳いでく 溺れてく/今夜はこのまま/泡の中で眠れたらなぁ》。着飾るような少女性や女性性の一切を排して歩んできたあいみょん。彼女が歌うこんな歌から、どうしようもなく滲み出てしまう愛らしさ、いじらしさはどうだろう。あるアーティストを好きになって向き合い続けるということは、互いの成長を確認し共有するということだ。この11月からはいよいよ最新ツアーが始まる。あいみょんとあなたは、そこにどのような経験を持ち寄るのだろうか。(小池宏和)