今週の一枚 KEYTALK『HOT!』

今週の一枚 KEYTALK『HOT!』

KEYTALK
『HOT!』
2015年5月20日発売



なぜKEYTALKはこの生き馬の目を抜く新世代バンドたちとのサバイバルの馬群を割り、頭ひとつもふたつも抜きん出ることができるのか。
なぜKEYTALKはあらゆるフェスの現場を面白いように沸かすことができるのか。
それはつまるところ「実力があるから」――なのだが、その「実力」の内訳をこのアルバムはじっくりと教えてくれる。
あの素晴らしかったメジャーファーストアルバム『OVERTONE』すらはるか後方に追いやるすごい完成度。そして、多くの若手ギターロックバンドが「次なる一手」を模索しているこのタイミングで、あっさりと次の次元に突き抜けてみせるその勝負強さ。ちょい古い言葉で言うなら、「持ってる」感じ。ちゃんとスターになっていくやつはちゃんと打つべきところで打つ。それは野球もロックも同じだ。ひとつひとつのチャンスをものにしながら、こうやって若手はチーム(=シーン)の枢軸になっていく。その意味で、まさに「決定打」と言っていい。
 
ちょっと具体的な話をしてみる。
『HOT!』には、「遊ぶこと」自体が目的になっていない、純粋な実験と成長がいくつもいくつも詰められている。
“グローブ”で聴くことができる、義勝と巨匠のヴォーカルを左右に振り、そのど真ん中を武正のギターが突き抜けてくるという構造。“キュビズム”ではレゲエのリズムが明確な緩急を作り、武正のワウバッキングがメロディとぶつかる寸前の際をいく。あるいは、“エンドロール”のセンチメンタルなメロディと男らしさを増した巨匠の歌いっぷり。巨匠の歌は「巨匠の歌」としての役割をいよいよ深く自覚し始めた印象で本当に頼もしくなった。義勝の歌にも大きな変化を感じる。彼のヴォーカルはそもそも優しく繊細な響きを持っていたが、季節と情景を描くようなリリシズムという明快な軸を意識しているのではないか。八木のドラムは相変わらず歌いまくっている。八木が集中した表情でふたりの歌を聴きながらリズムを楽しげに刻んでいく光景が頭に浮かぶ。また全編に「パンパン」という合いの手が惜しげもなく挿入されているのもいいなあと素直に思う。
 
その心は「実力は誰にも真似できない」ということだ。KEYTALKの「楽しさ」「明るさ」、それ自体は真似できるかもしれない。だが、KEYTALKの「実力」を真似することは誰にもできない。この実力が導くシーンの「主役」としての重さも喜びも、誰にも真似することはできない。
「とにかく踊れる」「とにかく楽しい」「とにかく最高」――。そんな喧騒の季節の向こう側にどう進んでいくのか。どの若手バンドもそのテーマに向き合っているが、KEYTALKはこのアルバムでひとつの回答をしている。そう、「実力」をただひたすら正しく発揮してみせる、ということだ。僕はこのアルバムは、彼らの「心」の成長が作らせたアルバムだと思っている。そもそも図抜けていた強いフィジカルとテクニックを、心の成長が大きく包み込み、正しく生かしきった作品。もう少し言うなら、「心技体」が完璧に揃った初めてのアルバムなのだと思う。
 
クラスで僕たちだけが知っているはずのネタで人気者になった彼が、いつの間にか全校の人気者になり、いつの間にかに生徒会長になっていくような物語を感じる。シーンの最前線を突っ走ってきたKEYTALKは今、質実ともにシーンの主役の座へと手を伸ばし、奔放さの向こう側に突き進もうとしている。このアルバムにあるのは「楽しい」だけじゃない、その向こう側にあるさらに大きな評価と果実への布石だ。僕たちはこのアルバムで、一歩先のKEYTALKに出会うことができる。(小栁大輔)
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