≪全部 僕のせいだ≫――何度聴いても胸が締め付けられるような気持ちになる曲だ。欅坂46が2月27日にリリースしたシングルの表題曲“黒い羊”を聴いて、どれだけの人が自分自身の心と向き合うことになっただろう。それはきっと、欅坂46の活動を追ってきた人たちだけに留まらない。何気なく付けたラジオから、テレビを観ている時に流れてきたCMから、または街中で偶然この曲を耳にし、それぞれが何かを思ったはずだ。それほどの訴求力を持った作品ゆえに今回は一際、発売前から様々な感想や意見が飛び交っていた。
≪君は君らしく生きて行く自由があるんだ/大人たちに支配されるな≫。力強い眼差しでそう高らかに歌い上げたデビューシングル曲“サイレントマジョリティー”から、もうすぐで3年が経つ。アイドルの中でも異質な存在感を放つ「欅坂46」のメンバーとして月日を重ねてきた少女たちは、今この瞬間にもいろいろなことを感じながら成長し続けている。10代ならではの潔癖や大人への疑心を滲ませるヒリヒリとした時期を経て、平手友梨奈が髪をバッサリ切り、衣装が制服チックなデザインから離れた5thシングル『風に吹かれても』から、欅坂46は新たなフェーズへと足を踏み出した。
そして、欅坂46のシングル表題曲に宿る「主人公」の心もまた、彼女たちと同じ時代を生きながら少しずつ変化してきた。今まで一貫して「自分を曲げて周りに同調することのアンチテーゼ」を掲げてきた主人公は、前作“アンビバレント”で≪孤独なまま生きていきたい≫、≪だけど一人じゃ生きられない≫という二律背反の感情を抱えていた。そんな流れからの新曲“黒い羊”では、あえて群れの中に置いたことで浮き彫りになる主人公の孤独が、少し引いた目線で見つめられている。きっと“サイレントマジョリティー”の時の主人公は≪黒い羊 そうだ 僕だけがいなくなればいいんだ≫とは言わないはず。この約3年間の様々な経験や出会いと別れが、主人公を自分自身に向き合わせた。そしてこのストーリーを現実に置き換えると、「群れ」は世間で「黒い羊」は主人公の心の機微を体現している欅坂46であるとも言える。
もちろん、欅坂46はシリアスな魅力だけのグループではない。それは今回のシングルに収められているカップリング曲の自由度や、特典映像「KEYAKI HOUSE」でのメンバーたちの無邪気な姿からも存分に伝わってくることだ。そうは言っても、一般的に目について話題に上がりやすいのはグループの顔となるシングル表題曲と、音楽番組での彼女たちのパフォーマンスだろう。作品のメッセージ性が強く、それを伝えたいという切実さゆえのリアリティを持つ表現ほど、誰かに深く刺さるし、反発が生まれやすいものにもなる。それすらも全て含めて、欅坂46というグループが創り出す世界観なのではないだろうか。彼女たちの表現はもはや一方的なものではなく、世間の反応をも巻き込んで成立する。この約3年間で欅坂46がそんなグループになったからこそ、8thシングル『黒い羊』は誕生した。(渡邉満理奈)