今週の一枚 THE ORAL CIGARETTES『Kisses and Kills』

今週の一枚 THE ORAL CIGARETTES『Kisses and Kills』 - 『Kisses and Kills』『Kisses and Kills』
それらを本当にリリースするかどうかは置いておいて、一般的に、多くのアーティストはフルアルバムを3枚作れるほどの曲数を持ってデビューすると言われている。何故かというとその頃にはパブリックイメージが確立されているものだからなのだが、このTHE ORAL CIGARETTESというバンドも例外ではなかったように思う。例えば「ダークファンタジー」と評されるドロッとした妖しさと色気のある世界観、山中拓也(Vo・G)の粘着質のあるボーカル、イントロから耳に残る鈴木重伸(G)による異世界じみたフレーズ、短パンを履いて足を大きく上げながら演奏するあきらかにあきら(B・Cho)のステージング、奔放な3人の手綱を握るような中西雅哉(Dr)のプレイ——。演奏面においてもそれ以外においても、見聞きすれば一発で「あ、オーラルだ」と分かるようなものを今のこのバンドはいくつか持っている。その「型」というべきものがあったからこそ、オーラルは他のバンドとはまた異質の存在感を確立していった。そして日本武道館や大阪城ホールをソールドアウトさせたり、フェスで大きなステージを任せられたり、『ミュージックステーション』に出演したりするほどの人気を獲得していった。戦略家気質なところもある4人ならば、きっとその辺りに対して自覚的だったはずだ。

そしてこのたびリリースされる4thアルバム『Kisses and Kills』は、過去3作で築いてきたバンドサウンドの「型」を鮮やかに脱していくような作品となっている。先発シングル収録曲(“BLACK MEMORY”、“トナリアウ”、“ONE'S AGAIN”)を含む全10曲は実に多彩。全体として「バンドで鳴らすことを一旦度外視して作ったのでは?」と思えるほど大胆な曲が多く、そのインパクトを弱めてしまわないようなアレンジが施されている。また、どこをとってもメロディが開けているのも特徴的だ。

SNSを見る限りだと、作詞作曲を担当する山中は、ここ最近(ミュージシャンだけではなく)ソロアーティストと盛んに交流していたようで、バンドシーンとは異なる界隈からも刺激を受けている様子だった(その辺りの話は発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号に掲載されているのでチェックしてみてほしい)。そういうインプットの変化が曲作りに直接影響を与えたのだろう。曲の土台そのものが変わった結果、各楽器が担う役割も変化し、鈴木・あきら・中西のフレージングはこれまでと異なるものに。4人それぞれがいちミュージシャンとして次のステージに突入しに行っているような感じがあるのだ。そういえば約1年前、武道館で山中は「何かひとつ強くなりたいなら、カッコいいヤツと一緒にいてください。もしもそんな友達がいないなら、俺ら4人がカッコいい友達になってやる」と言っていたが、あれはオーディエンスへのメッセージである以上に、自分たち自身に向けた言葉だったのかもしれない。

クリエイティビティに溢れた、バンドが「脱皮」したことを読み取れる作品だからこそ、歌詞において「光」や「愛」といった単語が多く登場すること、そして“もういいかい?”で始まり“ReI”で終わる曲順もしっくりくる。例えば先発シングルの段階からMVの色調が変わっていたこと、ライブでの既存曲のアレンジのされ方など、振り返れば「脱皮」の前兆は確かにあったけども、アルバムにおいてその「光」たる部分が曝け出されたのは今回が初。鮮やかな色の羽をはためかせ空を舞う蝶が如く、華麗で魅惑的な姿の4thアルバムが完成した。

未来へと向かう音のする作品だけに、いい意味で「いや、まだまだ行けるでしょう」と言いたくなるのが正直なところ。ここが最高到達点ではない、むしろここからまた新しく始まるんだ、ということはメンバー自身が一番実感しているはずだ。(蜂須賀ちなみ)

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