今週の一枚 椎名林檎
2014.06.09 09:10
椎名林檎
『NIPPON』
椎名林檎の曲にはいつも絶妙な押し引きと駆け引きがある。
その駆け引きを味わうことが椎名林檎の歌を聴くときの至高の快楽であるとも言えるのだが、
この曲にはそれが無い。
この曲は椎名林檎がまっすぐに全力で放つ、熱い声援であり、手放しの祝福である。
NHKサッカーのテーマ曲というお題があったからこそ生まれた曲だが、こんな機会でもない限り林檎のこんなにもストレートでポジティブな歌はなかなか聴くことができないだろう。
ナイス・オファーである。
めったに生まれないだけに、とてつもない名曲である。
椎名林檎のエモーションがサビ、Aメロ、Bメロ、Aメロ、サビ…と畳み掛けてきて一度も「引か」ない。
選手だけではなく、それを見て応援している人たちすべて―――
つまりは「NIPPON」を鼓舞して、勝利のイメージを喚起して、不屈の闘志を掻き立てるために、
ありったけの強く美しくしなやかなメロディーと歌声を注ぎ込んだフルスロットルの楽曲だ。
こういう曲を、「テーマ曲のオファー」=「与えられた使命」によって書き上げたというのが非常に椎名林檎らしいと思う。
自分に何が求められているのか、それに対して自分は何ができるのか、
という観点から誠実に表現活動しているのだということがこういう時にすごく露わになる。
わがままや気まぐれにも見える(かもしれない)椎名林檎の活動は、
実は「使命を果たす」というストイックな姿勢に貫かれているということが本当によくわかる。
戦いの瞬間を、体育会系のノリとは真逆の文系ジャズ・アレンジで深く歌い描く「逆さに数えて」も素晴らしい。