今年で結成10周年の04 Limited Sazabys。アニバーサリーを勢いづけるようにリリースされたメジャー4thシングル、その1曲目のタイトルが“My HERO”だと知った時、もはやこのタイトル以外ありえないでしょうと頷きたくなるレベルで納得がいった。
「ヒーロー」とそうではない人を明確に分けるのは、「背負う・担う・憧れられる」に自覚的であるかどうかだと思う。このバンドに関して言えば、ちょうど武道館ワンマン前後からその部分が表出していき、「周囲から求められていることは何となく分かる」、「しかしそこに傾倒しすぎるとライブではなくショーになる」、「それは嫌だし、生身の魂を出していかなきゃ意味がない」という葛藤がライブからも見て取れるようになった(その辺りの話は『ROCKIN'ON JAPAN』4月号掲載のインタビュー記事でも語られている)。そして、武道館+ツアー2本という武者修行のような2017年を経てリリースされるのが今回のシングルであり、その1曲目が“My HERO”というど真ん中のタイトル。ということはつまり、彼らはその辺りのバランス感覚について自分たちなりの答えを見つけたのではないだろうか——。
実際耳にした“My HERO”は、フォーリミの王道を自ら更新していくような、確信的かつ決定的な曲だった。2ビートがもたらす爽快な疾走感。シンプルだからこそ一層泣けるメジャーコードの響き。透き通ったハイトーンを存分に活かしたボーカル。Hi-STANDARDという「ヒーロー」に憧れここまで歩んできた過去の自分たちにも宛てているような歌詞。終盤にはキーが上がるもののそのドラマティックな展開を引っ張らず、パンクチューンらしく締めて2分半とコンパクトにまとめている辺りはこのバンドなりの美学の表れといえるだろう。
溢れてしまった言葉を詰め込んだアウトロは何とも人間臭くグッとくるものがあるが、同時に、その極めて重要なフレーズを叫ぶことなくあえて感情を抑えたような歌い方をしている点にはGEN(B・Vo)特有のシビアな視点が表れている。しかしその「シビア」の温度感が今までとはまた違うものだということは、《先に進むだけ/さらに進むだけ》と鳴らされる瑞々しいサウンドを聴けば明らかだ。「いつかみんな自分たちの音楽を卒業していく」と言っていたあの頃とは違い、今の彼らには(かつての自分たちにとっての)夢物語を「現実」として受け止め歩くための強さがある。
活動年数を重ね、以前よりも多くの人に求められるようになったことで生まれた責任のようなものの上で、昔と同じような衝動を放つにはどのようにするのがベストか。そのために何を信じ、何を守り、何を鮮やかに脱ぎ捨てるべきか。そう考えるともうひとつの表題曲の“夕凪”が初の日本語タイトル曲であることも象徴的で、英語タイトルというひとつのこだわりを今捨てたのは単なる偶然でも気分の問題でもなさそうだ。そして《先に進むだけ/さらに進むだけ》と締め括る“My HERO”と《進行方向 見失って 混乱中》と始まる“夕凪”は好対照だが本質的には繋がっていて、ザ・両A面という感じが出ているのが良い。言葉や音の選び方は違えど「まだまだ旅は続いていく」という結論は共通しており、旅の過程での喜びと痛み、そのどちらにより焦点を当てているかという点が2曲を違うものにさせているように思う。結論を重ねるということはそれこそがアニバーサリーのタイミングで最も伝えたいことだったということ。そのメッセージを説得力を伴いながら立体的に鳴らすため、今回のシングルではこの2曲が採用されたのではないだろうか。痛み寄りの“夕凪”の方がどちらかというと重い曲ではあるが、押韻や流れるようなメロディーライン、一斉に刻むリフなどでリズミカルな心地よさを生み出し、ライトに聴けるような工夫が施されていることも注目しておきたいポイントだ。(蜂須賀ちなみ)