今週の一枚 水曜日のカンパネラ『ジパング』

今週の一枚 水曜日のカンパネラ『ジパング』

水曜日のカンパネラ
『ジパング』
2015年11月11日(水)発売



すでに各方面で話題沸騰中の水曜日のカンパネラ。主演(ヴォーカル)のコムアイ、楽曲制作を担当するケンモチヒデフミ、そして、それ以外を担当するというDir.Fの3人からなるポップハウス・ユニットである。今年4月にリリースしたEP『トライアスロン』では、コムアイのヴォーカリストとしてのさらなる魅力を見せつけてくれたが、フルアルバムとなる今作『ジパング』での自由さは、これまでに感じたことがないタイプのものだ。衝撃的ですらある。

今作には、江戸時代前期のアイヌの首長の名を冠した“シャクシャイン”、一皿のカレーにエジプトの太陽神を見る“ラー”など、こちらのイマジネーションをぐいぐい刺激する楽曲が詰め込まれている。例えて言うなら、日常の風景に突然当たり前のように裂け目ができて、そこから時空を超えて自由な旅に出るようなトリップ感が、今作では強力に増している。誰もが時々経験する、ひとつの景色やひとつの言葉からどんどん自由連想を重ねていく幸せな空想の時間にも似ており、連想の精度と情報量の多さに思わず笑いがこみ上げてしまう。

コムアイの浮遊感たっぷりのポエトリーなラップは、時代や空間の垣根をたやすく壊してしまうほどの魅力を持つ。今作からの歌詞を引用するならば、隅田川からユーフラテス川へ、琵琶湖からデンバーへ、昨日今日から飛鳥時代へ、そう、そこにあるのは、どんな制約にも縛られない圧倒的な「自由」。コムアイの歌だけではない。今作でのトラックメイキングの絶妙なキャッチーさにも、ぜひ耳を傾けてほしい。これまでに味わったことのないような音楽の機能がそこにある。おそらくこれまで、水カンのことを「なんとなく面白いな」と感じていた人たちが、その評価をはっきりと確信することになるであろうアルバムだ。聴き逃し厳禁、終日リピート必至の超名盤。(杉浦美恵)
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