今週の一枚 ヤバイTシャツ屋さん『Galaxy of the Tank-top』
2018.01.09 13:15
オリコン週間チャート7位に送り込まれた前作『We love Tank-top』は、ヤバTの鮮烈なメジャーデビューそのものが大きなネタとしてシーンに笑いをもたらし、歓迎されたところがあった。ヤバTとしてはその辺りの経緯も予め計算済みだったろうし、だから僕は「メジャー進出したヤバTがその後どう戦うのか」ということの方に興味をそそられていた。昨年のシングル2作を経てからの新作『Galaxy of the Tank-top』には、見事なクオリティコントロールと呼ぶべき「楽しさ」の一貫性と安定感がある。
でも、すでに多くのリスナーに認知されたバンドの性格がそういうものだからこそ、ファンを心配させたくないという部分も引っ括めて、ヤバTの3人にかかるプレッシャーは並々ならぬものがあっただろうな、と想像する。重圧を跳ね除けて大きな期待に応えようとする姿勢がサウンドの端々から立ち上ってきて、今回は何よりもその手応えに感動してしまうアルバムになっているのだ。楽しいロックに徹する表の顔の、その裏側にあるものに思いを馳せてしまう。
キャラクターをより明確に打ち出しながらメッセージを届けるこやまたくや(G・Vo)としばたありぼぼ(B・Vo)の歌声のコントラストといい、無節操なぐらい欲張りに変化してゆく曲調をタイトに叩き分けるもりもりもと(Dr・Cho)のビートといい、本作では超高性能なロックを形にするための歯ぎしりするような努力が透かし見えてしまって、どうにもグッとさせられっぱなしなのだ。お気楽で出たとこ任せの活動姿勢では、絶対にこの音にはならない。
初っ端から《Tank-topの力で/さあ、Punk Rockを超えれるか/破るんや自分で裂く》と、目一杯のスピード&ヘヴィネスを叩きつける“Tank-top in your heart”に始まり、ストリングス入りの壮麗なアレンジへと変貌を遂げた“肩 have a good day -2018 ver.-”に終わる全13曲。タンクトップが似合わない細い肩幅は、生来の陽キャではありえないからこそ思い切りロックする、そんなヤバTの一貫した反骨精神を象徴していた。アルバムタイトルに「Tank-top」のフレーズを配しタンクトップくんの図柄を入れるのは、ヤバTにとって根源的な表現衝動を問う戒めというか、ほとんど呪いのようなものなのではないか。
彼らはこの2作目のアルバムで、すでに完璧なバンドの物語を描き切っている。タンクトップの呪いはもとより、ドローン使用の法改正という旬の時事ネタを盛り込んだ“ドローン買ったのに”は、“ヤバみ”や“肩 have a good day”といったMV制作の物語があればこそ生まれた新しいブルースだ。アーティストとしての物語をリスナーとしっかり共有することは、長いキャリアを築いていく上でとても大切になる。そういう部分からも、タフな活動姿勢や意欲が見えてくるのだ。
あらためてのメジャー流通音源となった“メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲”は嬉しいし、究極の「バンドの物語」と呼ぶべき“サークルバンドに光を”が素晴らしい。陽性のメロディックパンクチューンだが、丸裸のメッセージが詰め込まれた感涙の1曲である。《誰でも使える言葉を使って誰にも歌えん歌を歌う/ノリと勢いだけ そんなことないと 分かる人は分かってるはず》。こやまはこの曲でそう歌っている。ロックバンドのアルバムなめんな、と心から思える1枚だし、ヤバTがそれをやってくれたことが尚更感慨深い。(小池宏和)