今週の一枚 Suchmos『FIRST CHOICE LAST STANCE』

今週の一枚 Suchmos『FIRST CHOICE LAST STANCE』
7月2日、日比谷野外大音楽堂のステージに立つSuchmosが放っていた、どこまでもピュアでありながらアグレッシブな全能感は、彼らのバンドとしてのアイデンティティをあらためて浮き彫りにしていた。そして、「グルーヴ」や「ヴァイブス」という極めて曖昧な概念にその音楽で濃厚かつ鮮やかな色を付けていた。誰に強制されるわけでもない。目の前で鳴らされる音楽を享受して、リズムに身を任せて自由に身体を揺らし、あるいは自らが心地いいと思えるタイミングでフレーズやメロディを口ずさむということ。歌としてキャッチーであるとか、特定のシーンで生き残るためのサウンドプロダクションがどうとか、そんなことはどうでもいいのだ。Suchmosにとって無粋で余計な打算は、音楽から敬意を取り払うことであると、メンバーが誰よりも理解している。豊潤な色気と刺激に富み、楽曲全体で、演奏全部でグルーヴでありヴァイブスを掲げるSuchmosの全能音楽は、確かに今、この国のバンドとオーディエンスをめぐる景色を大きく変えようとしている。言うまでもなく、今のSuchmosにとってもはや野音は、この日初めて立ったステージでありながら、バンドの規模としては通過してもおかしくないキャパシティの舞台だ。しかし、その実、4月27日に新レーベル「F.C.L.S.」を始動した今のSuchmosにここから彼らの音楽が無尽蔵に広がっていきそうな予感を覚えさせる野音のロケーションは、とてもよく似合っていた。7月9日(日)に開催される大阪城音楽堂でもオーディエンスはそんなことを実感できると思う。

すでに多くの人が耳にしているだろう、7月5日にリリースされた「F.C.L.S.」の意味をひもとき、レーベルの信念を表明する第1弾シングル『FIRST CHOICE LAST STANCE』は、上述したSuchmosの真髄が、“WIPER”と“OVERSTAND”の2曲に凝縮されている。2ndアルバム『THE KIDS』で押し広げた強大なスケールを誇るロックモードをさらに研ぎ澄ませた“WIPER”。クールにレイドバックしたアンサンブルで胆力に満ちたアンセムを響かせる“OVERSTAND”。 

誰よりも音楽の力を信じ、誰よりも反骨精神を持ちながら、誰よりも包容力のあるバンドであれ。Suchmosはつねに原点を見つめながら、とめどなく未開の地を切り拓いていく。(三宅正一)
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