今週の一枚 [Alexandros] 『NEW WALL / I want u to love me』

今週の一枚 [Alexandros] 『NEW WALL / I want u to love me』

[Alexandros]
『NEW WALL / I want u to love me』
2016年4月20日(水)発売

いよいよだ。2万3千人を動員した昨年12月の幕張メッセ公演で、「実はまだタイトルも決まってなくて、構成も決まってなくて、歌詞も決まってない」という川上洋平の前置きに続けて、ストリングスセクションの流麗なサウンドとともに初披露されたあの曲。当代随一のロックバンドが、ロックに甘えることも依存することもなく、まったく異なるフォーマットで己のヴィジョンを具現化した結果、[Alexandros]にしか描けない壮大な風景を繰り広げるに至った楽曲“NEW WALL”が、いよいよ音源としてリリースされる。

清冽なピアノの調べをバックに響く洋平の独唱から、ストリングスのメインフレーズ&7拍子のバンドアンサンブルが熱く融け合う……という幕開けの時点で、これまでの[Alexandros]の楽曲とはまったく別次元の決意と闘志を感じさせる“NEW WALL”。バンドサウンドの「背景」としてのストリングスアレンジとは一線を画した、「自分たちが鳴らす楽器以外の音に主旋律を委ねる」という、ロックバンドのアイデンティティにも関わるトライアルに挑んだ彼ら。その鍵は、《敵いそうも無い/「壁」が立ちはだかって/僕の傷を望むだろう》という歌詞と、その世界観をそのまま具現化したミュージックビデオの「4人が壁に向かって演奏する」というコンセプチュアルな映像にある。

[Alexandros] - NEW WALL(Short ver.)

「幕張もそうですけど、武道館も、Zeppも、AXも、クアトロ、シェルター……一個一個、うちらはステップを踏んでるなあって。変な背伸びをしないで来たんですよ。だから、我々と同じくらいの世代のバンドがZeppをやってる時に、我々がAXで。『ああ、まだかよ』って思ってたけど、それも『自分たちがそこに行くのに本当に相応しいバンドになるために、もっとやんなきゃいけないことあるよね』って話した結果だった」

昨年の幕張メッセの舞台で、洋平は自身のバンドヒストリーをそんな言葉で振り返っていた。ひとつひとつ壁を乗り越えた結果としてアリーナクラスのロックバンドになった彼らが今「新しい壁」に向き合っているということは取りも直さず、傍から見れば現状でも十分すぎるほどに順風満帆な彼らがさらに「その先」のフィールドへ進もうとしていることを意味している。そのためには、自分たちの築き上げたフォーマットや必勝パターンを壊すことも厭わない。あたかも、1面2面揃えた状態のルービックキューブに満足することなく、6面揃った完全体を目指して一度揃った面を崩すかのように。

ちなみに、前述の《敵いそうも無い/「壁」が立ちはだかって/僕の傷を望むだろう》というフレーズはその後《それでもきっと/どうしようもないくらい/僕はそれを愛するだろう》と続いていく。次々に目の前の壁を超え、自らのスケールを拡大していくその姿こそが、[Alexandros]の無限のロマンを生んでいく――というバンドの在り方を象徴する決定的なナンバーだ。バンドの野性と衝動とロックンロールの限界値を鮮やかに更新してみせた“I want u to love me”と併せて、2016年のロックを語る上で不可欠な1枚だと思う。(高橋智樹)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする