今週の一枚 Mrs. GREEN APPLE『ENSEMBLE』

今週の一枚 Mrs. GREEN APPLE『ENSEMBLE』 - 『ENSEMBLE』通常盤『ENSEMBLE』通常盤
例えばポップに弾けた“サママ・フェスティバル!”、EDMに振り切った“WanteD! WanteD!”、“WHOO WHOO WHOO”など、リリースの度に聴き手の予想を軽く飛び越えてきたこのバンドに対して、これまで「え、ミセス変わった?」と何度か思った人も少なくはないだろう。しかし今作を聴けば分かるはずだ、彼らが目指していたものの正体が。『ENSEMBLE』は、これまでの彼らが作りたかったけど作れなかった、3枚目にして辿り着いたひとつの到達点である。

再生ボタンを押したと同時に脳内に浮かぶイメージは、メンバー5人が演奏しているステージ上に、入れ替わり立ち替わり共演者が現れるような感じだろうか。全13曲は表情豊かで、演奏曲目は多種多様。シングル収録時からイントロ&アウトロを延ばした“Love me, Love you(ENSEMBLE Version)”ではビッグバンドが、“They are”ではフルオーケストラ+ゴスペル隊がバンドの背後に並び、“はじまり feat. キヨサク from MONGOL800”ではモンパチの上江洲 清作がゲストとして登場。“PARTY”のようにメンバーそれぞれが従来のパートに縛られない楽器を演奏している曲もあれば、外部のピアニストにピアノアレンジを依頼した“アウフヘーベン”のようにバンド外からの刺激を意図的に取り入れている曲も。また、“スマイロブドリーマ”、“On My MiND(Album Version)”、“どこかで日は昇る(Album Mix)”などのタイアップ曲はいわばそのドラマ/映画とのコラボだし、ファンクラブツアーで「演奏してほしい曲」1位に選ばれ音源化も望まれていた“REVERSE”に関してはその存在自体がファンとのコラボともいえるのかもしれない。

『ENSEMBLE』というタイトルの通り、今作の中で特に大切にされているのは、ミュージシャン同士の生の呼吸。それは初めてバンドで集まりせーのでジャーンと鳴らした時のワクワクした感覚に近く、つまり本作のテーマはかなり根源的といえるだろう。そしてとりわけ歌詞の内容において、初期曲に近い温度感を持つものが多いことを特筆しておきたい。例えば“アウフヘーベン”は“パブリック”(1stアルバム『TWELVE』収録)と対になる曲だというし、“SPLASH!!!”は大森元貴(Vo・G)にとって“SimPle”(同じく『TWELVE』収録)と似たような立ち位置にある曲だという。さらに、リード曲の“PARTY”には「死ぬ」というストレートな単語が久々に登場するほか、『Progressive』(インディーズ期のミニアルバム)収録の“我逢人”に通ずるフレーズがある。

≪知り合って/笑いあって/傷ついて/歩み寄って/“人”を知る人になれ≫(“PARTY”)
≪誰かは出会って誰かは好いて/誰かは嫌って 人は人は/傷を癒して 心撫で合って/人は、人は≫(“我逢人”)

どんなに傷ついたとしても、愛することを諦めないということ。大森はそういう「人」の尊さを歌詞に描き続けてきたが、その強くやさしい言葉たちが、人種や国籍のボーダーをも鮮やかに飛び越えるサウンドの上で花開いているのはかなり感慨深い。心と体がいよいよ一致し始めたこの感じが決して偶然の産物などではないのだということは『ROCKIN’ON JAPAN』5月号インタビューでのメンバーの発言を読めばよく分かる。大森は、今作を作る工程について「建築してるみたいだった。一から勉強して、一から素材集めして、みんなで分担してひとつの建物を作っていくような感じ」と言っていた。それはつまり、思い描いた理想は内側には最初からあって、それを現実世界で描くために向けてバンドは動き続けていたということ。それを踏まえて振り返ると、デビュー前から続くライブシリーズ「ゼンジン未到とロワジール」を昨年夏に開催したのもそう、EDMやビッグバンドをやったのもそう、「バンド=ロック」的な固定観念に疑問を提示し続けてきたのもそう。ミセスの活動を追ってきた人ならば特に、思い当たる節がたくさんあるのではないだろうか。

伏線回収と言ってしまえば何だか華麗な手口のように聞こえるが、バンドは人で、そこに生の呼吸があるからこそすんなり行かないことだって当然ある。全13曲。こんなにも明るい響きをしているのに何だかグッときてしまうのは、5人それぞれが音楽家としての負荷を自らに課し、バンドとして足掻いてきた跡が至るところから読み取れるからなのだと思う。『ENSEMBLE』はこれまでの道のりが実を結んだからこそ生まれた傑作であり、これからのMrs. GREEN APPLEをより自由でたくましいバンドにするための初めの一手だ。(蜂須賀ちなみ)

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