今週の一枚 ユニコーン『ゅ 13-14』

今週の一枚 ユニコーン『ゅ 13-14』

ユニコーン
『ゅ 13-14』
2016年8月10日(水)発売

頭5曲すべてボーカルをとっているメンバーが違う、というのが宣伝文句のひとつになっている、ユニコーンの約2年4ヵ月ぶりのニューアルバム『ゅ 13-14』。今回たまたまそういう曲順なので、それがよく取り沙汰されているが(曲順担当の奥田民生によると、3曲目まで決めたところでそうなっていることに気づき、「じゃあ」ってことであと2曲もそうしたらしい)、ファンならご存知のとおり……いや、ファン以外にも周知の事実だが、3rdアルバム『服部』(1989年)以降、ユニコーンはずっとそういうバンドである。そして、2009年の再結成以降、その姿勢にいっそう拍車がかかっている。

そのユニコーンのやりかたは、『ケダモノの嵐』(1990年)や『Z』(2011年)といった傑作も生んできたが、同時に、常に「自分たちが盛り上がれることを優先するがあまり、リスナー置いてけぼり」になる危険性と背中合わせでもあった。それが危険だとか考えもしない人たちなので、そのへんに関してはどうすることもできないが、現に、僕は正直、前作『イーガジャケジョロ』に関しては、おそらくユニコーンのアルバムを聴いて初めて「いくらなんでもこれはちょっとやりすぎでは」と思った。特にツアーを観てそう感じた。

で。それは今作『ゅ 13-14』において改まったのか。改まらない。改まるわけがない。「それを改めるくらいだったらユニコーン動かしません。だってそれがユニコーンをやる意味なんだから」くらいの人たちなので。改まるどころか、むしろ激化している。
しかし。にもかかわらず、やりすぎ感、置いてけぼり感がないのだ。ということに、とても驚いた。ちょっと混乱するくらいびっくりした。
歌詞が叙情的だったり、なんとなくプライベート感が漂っていたり、アレンジが凝りまくっているくせにシンプルだったりして、聴き手がおもしろがったり、感情移入したりできるとっかかりが、どの曲も、あちこちにある。要は、リスナーに近い。
と、書いていて思った。これ、『ケダモノの嵐』にもすべてあてはまることかもしれない。

なぜそうなったのかはわからない。本人たちがそういうものを作ろうとして作った、とはどう考えても思えないので、「たまたまそうなった」という可能性も高い。高いが、『イーガジャケジョロ』の次のアルバムが、全員が50代に突入して初めてリリースされる作品が、来年(2017年)デビュー30周年を迎えるタイミングでの新作が、そのようなすばらしいものになったことを、とてもうれしく思う。(兵庫慎司)
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