今週の一枚 神様、僕は気づいてしまった『CQCQ』

今週の一枚 神様、僕は気づいてしまった『CQCQ』

5月31日にシングル『CQCQ』をもって遂にメジャーデビューする、神様、僕は気づいてしまった。すでに発表されている“だから僕は不幸に縋っていました”は、アクションRPG『スターオーシャン:アナムネシス』、“僕の手に触れるな”はTVアニメ『ちるらん にぶんの壱』に引き続き、今作の表題曲“CQCQ”は、メジャーデビュー前ながら、TBS火曜ドラマ『あなたのことはそれほど』の主題歌に異例の大抜擢をされ、ドラマ放送前から注目を浴びていた。さらに、本人たちのビジュアルは謎めいた覆面で、どこのだれか(Vo・G)、東野へいと(G)、和泉りゅーしん(B)、蓮(Dr)というメンバー名以外は一切明かされていないにも関わらず、メッセージ性を持った歌詞や特徴的なボーカルの声、その上、楽曲の完成度の高さが魅力である。


ギターのイントロが特徴的な“CQCQ”。ソリッドなギターワークからの高速アルペジオなど、アップテンポながら、歌謡曲的な曲調には重みを感じ、憂いを孕んでいるかのように感じる。さらにそこにボーカルのハイトーンボイスが、より危うさや波乱感を増幅させ、グルーヴィーなベースとドラムが重厚感を与えている。
ドラマ主題歌として聴くと、主演の波瑠が演じる美都が、自分の理想の幸せを追い求めるがために手放した大切だったもの、そしてもう戻らないものに後悔し、助けを乞うさまにリンクするが、この曲を聴いている自分を主人公としても置き換えられるだろう。

「CQ」とは、無線通信において、応答者を求める呼び出し信号で、遭難信号という意味もある。RO69で同バンドがメジャーデビューするというニュースを掲載した際(http://ro69.jp/news/detail/157704)、この曲の作詞・作曲を担当した東野へいとが、「人々の営みとは、四方八方の景色の先に何が待っているのかわからず、それ故に自分が正しい航路を歩んでいるのか、そもそも暗車は動いているのか五里霧中である事の連続です。人生って、大海原にただ一人で放り出された遭難者の航海日誌とでも呼ぶに相応しいんじゃないか」とコメントしているとおり、人生=航海として自分の信じた道=航路を突き進んできたら、いつのまにか進んでいるかもわからず、五里霧中の状態で、まさに大海原で遭難してしまったような経験をしたことがある人もいるだろう。
《どうしたってなれない夢ばっかを選んで/どうにだってならない嘘なんかを吐いて/買い被った不完全な沈没船を救ってよ》自分の夢のために嘘をついてしまうこともあり、その結果の自分を《不完全な沈没船》として描いている。《どう足掻いて前向いたって夢は遠ざかって/どう踠いて帆を張ったって嘘にしか見えなくて/ユートピアと命名した幽霊船は沈んでく》進んでいると思っても実は後退していたり、苦しんで頑張ってみてもそれが正しいかわからなくなり、自分の信じた理想は《幽霊船》のように実体がなくなり、結果、沈んでしまうこともある。
希望を持って航海に出た人生という大海原で、後悔と絶望を味わい、どこにも進めなくなって挙句の果てに自分がどこにいるのかもわからなくなり、沈没しながらも《シーキューシーキュー》と誰でもいいから《どうか》と《頬を伝った遭難信号に 気付いて》と涙を流し、それでも人は生きていくという、人生を綴った物語=航海日誌の歌なのである。

同作に収録される2曲目“オストリッチ厭離穢土”は、今まで曲名しか明かされておらず、この度初めて公になる曲である。
「厭離穢土」とは、けがれた現世を嫌って離れることなどを意味している。
とても疾走感がありロックなナンバーだが、サビでのまくし立てるように歌うさまは、生きていくことに息切れして、それを振り払うかのようなイメージが駆り立てられる。“CQCQ”もそうだが、人生や生きていくことに向き合う内容が特徴的なナンバー。

3曲目の“週刊アンソロポロジー”も同様に今回初お披露目の曲となっている。
「アンソロポロジー」とは人間学という意味で、この曲では自分の人生の物語を冒険譚として週刊連載のように綴っていることが描かれている。“CQCQ”“オストリッチ厭離穢土”とはまた違って、リズミカルな曲となっており、やはり前述2曲と同様、人生観についての内容だが、それらよりは淡々とした印象の曲に聴こえるのは、物語を書く主人公を語っている曲だからだろう。

つまり3曲とも人生や生きることについて描かれ、重々しい内容が目立つが、それは逆に、飾ることなく人間の陰の部分を文学的理論で明かすことで、聴く人の奥底にリンクするようなメッセージ性が込められているのである。
つらく苦しい現実に向き合い「逃げたい」と思いながらも「生きていたい」と願う全ての人に、素通りできない訴求力で衝撃をもたらす、このバンドは絶対に注目だ。(中川)
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