今週の一枚 RADWIMPS『Human Bloom Tour 2017』

今週の一枚 RADWIMPS『Human Bloom Tour 2017』


タイトルのとおり、RADWIMPSが2017年春に行ったツアーから、4月30日さいたまスーパーアリーナ公演の模様を収録した作品。Blu-rayやDVDの映像作品と、CDライブアルバム、ミュージックカード(ダウンロード用)、そして映像作品とCDが同梱される完全生産限定盤といった各種形態のパッケージが用意されている。

僕はこのさいたま公演の後日、武道館でツアーファイナルを実際に観たのだけれど、そのときの終演後ブログで「こんなロックは世界のどこにもない。ロック史上にも見当たらない」と書いた。まったく大袈裟な話ではないということが、この作品に触れれば分かるはずだ。斬新さも、ポップな包容力も、演奏の明瞭さも、どこをとっても圧倒される。映像作品の中に広がるスペクタクルは刺激的で見事だし、あらためてライブ盤CDにも触れてみたい。リスニング作品として素晴らしいから、ライブ盤もリリースされるのである。

ツインドラムのサポートが入った2015年の対バンツアーのときは、正直に言ってこれほど深い感銘を受けることはなかった。『君の名は。』、『人間開花』という作品が生まれたからということだけでもなくて、そもそもRADWIMPSがバンド表現を根本から生み直さなければならない状況と向き合ってきたからだと思う。ドラマーが休養に入ったからふたりのサポートドラマーがいれば埋め合わせが出来るというほど、バンドのメカニズムは簡単ではない。0を1にするための、想像を絶するような格闘を経て生まれたのが『君の名は。』であり『人間開花』であり、そしてこのツアーだったということなのである。

逆に言えば、0を1にするというバンド表現の根本に全力で向き合ってきたからこそ、作品で、またツアーで、RADWIMPSの創造性は凄まじい爆発力を発揮することが出来たのではないだろうか。彼らがどうにかこのときを生き延びたいと考えたのか、いつか帰ってくるはずのメンバーのためにどうにかこの場所を守りたいと思ったのかは傍目には分からないけれど、過酷な環境の中で創造性を発揮することができた喜びは、映像からもビンビン伝わってくる。喜びのすぐ裏側に、ギリギリの危機感があったのである。

本編後半の“DADA”から“前前前世[original ver.]”に至る怒涛のロック展開は痛快極まりないが、そこに辿り着くまでに、あの手この手で創造性の成果を伝えてゆくさまには、1曲毎に惚れ惚れとさせられる。卓越した演奏と、アレンジのアイデアを振り絞り、まっすぐなメッセージを伝え、心の底から音を楽しみ尽くしている。繰り返すようだが、この光景は決して、バンドにとって幸運な時期の、恵まれた環境から生み出されたわけではないのだ。(小池宏和)
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